第二十四章 霊媒師 水渦の選択

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「そのつもりです。愛華さんがどれだけあなたを大事に思っているか、それを知っていますから」 本橋さんの答えはシンプルだった。 「大事にって……そうかもしれないけど、それは姉の気持ちと都合ですよね。本橋さんには関係のない話です」 「関係なくはないですよ。愛華さんの妹なら私にとっても大事な人だ」 垂れる汗を拭いつつ、”大事な人” だと言った声は真剣だった。 緊張が伝わってくる。 ____本橋さん、その恰好は……? 本橋さんが(ここ)に来た時、愛華さんは不思議な顔でそう言った。 おそらく、厨房と言う仕事柄、普段はスーツを着ないのだろう。 それなのにこの恰好、もしかしたら……水渦(みうず)さんに会う為に、わざわざ着替えてきたのかもしれない。 だとすれば、そこまでしてくれるのは、彼の言葉に嘘がないからじゃないのかな。 「そんなの……綺麗事です、」 絞るように出た言葉、水渦(みうず)さんがよく言うセリフだ。 このあとは “反吐が出ます” と続くはずだが、今回それを言わなかった。 真一文字に口を結んで、ここで言葉を止めたのだ。 それはきっと、水渦(みうず)さんも分かっているのだろう。 なんてったって、この人は ”上辺の言葉” の奥を読むのが得意だもの。 とここで、「みぃちゃん……あのね」、愛華さんが妹の名を呼んだ。 ハッキリとは言わないけれど、水渦(みうず)さんは3人で暮らす事に難色を示している。 愛華さんは悲しそうな顔をして、何かを言おうとしたのだが、本橋さんがそれを止めた。 「愛華、待て。まだ俺の話は終わってねぇ。むしろこれからが本番だ。喋るのはもう少しガマンしろ。愛華はヘンなトコせっかちだ」 愛華さんには砕けて話す、本橋さんはその勢いで水渦(みうず)さんに向き直る。 「水渦(みうず)さんが ”綺麗事” だと言ったのは、私があなたを ”大事な人” だと言った事ですか?  …………ああ、そうなんですね。確かに、私と水渦(みうず)さんは今までに話した事もなければ、顔を見るのも初めてです。それなのに、愛華さんの妹というだけで ”大事な人” と言うのは、軽々しくて信用出来ないと思ったかもしれません。ですが私は本気です」 ズィッと一歩前に出て、最後の方は目と言葉に力が入る。
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