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必死の言葉、それを聞いて水渦さんは足を止めて固まった。
格子の扉を開ける事無く振り向くと、
「知っていた……? それなのに私を ”大事” などと言ったのですか……? なぜ? それが姉の条件だからですか……?」
驚きを隠せないままそう聞いた。
本橋さんは、出て行かない水渦さんに安堵の息を吐きながら、
「そうだ、それが愛華の願いだからだ」
と、またもシンプルに答える。
「……本橋さんは立派な方ですね、……全てを知った上で、それでも私を受け入れると仰る。腹が立たないのですか? 本来なら5年前に結婚出来たはずなのに、」
「そうだな……腹が立つか立たないかで言えば、……立ったかな、」
あ、……うん、そうだよね、それは当然だよ。
「……そうですよね。腹を立てて……当たり前だと思います、」
消え入りそうなか細い声。
普段ならたとえ自分に非があったとしても、声を大に言い返すのに。
今回ばかりは……さすがに出来ないよね。
「本橋さん、あなた本当は……私の事を恨んでいるのではないですか? だけど、姉と結婚するには私を受け入れざるを得ない……そういう事ですよね、……申し訳ありませんでした。これ以上二人の邪魔をしたくありません。ですから、私はもう二度と、」
「ま、待て! 恨むなんてちがう! だから待ってくれ、俺の話を聞いて、……あ……いや……”俺” じゃなくて……その、”私の” 話を…………ってクソッ! 今更だな……やっちまったよ、うっかり地が出ちまった」
バツ悪そうに頭を掻いて、ブツブツ言ってる本橋さんに「お気になさらず、普段通りで構いません」と水渦さん。
本橋さんはますます頭を掻いたけど、「悪い」と言って前を見た。
「まったくよ……慣れない事はするもんじゃねぇな。スーツも、ヨソイキの話し方も、俺にしちゃあ頑張ったつもりだけど、やっぱしダメだ、ボロが出て続かねぇ。もういいや、ここからは普段通りにさせてくれ。
それで……その、さっき、水渦さんは俺の事、”立派な方ですね” と言ったよな。わ、悪いな、それ間違ってる、立派じゃねぇよ。俺は弱くてだらしがなくて、どうしようもないダメ人間だ、」
本橋さんがダメ人間?
そうは思えないけど、もしかして言葉遣いが悪いから?
いや、そんな事じゃないんだろうな。
一体、どういう意味なんだ?
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