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水渦さんも同じに思ったのか、眉間に薄くシワを寄せて本橋さんを見つめてる。
本橋さんはネクタイを雑に緩めて、汗を拭ってこう言った。
「あのな、正直に言うと……、その……俺も色々やらかしたんだ。だから、立派とは程遠くてよ、……俺、水渦さんの事どうこう言えねぇんだ」
「それはどういう意味ですか……? もしかして、あなたも姉になにかしたのですか……、」
一瞬、水渦さんの顔が険しくなった。
強い視線をモロに受け、だがそれに怯まず本橋さんはこれまでの事を語り出したんだ。
「…………愛華が突然姿を消した5年前が始まりだ。事情をなんにも知らない俺はパニックになった。毎日とってた連絡が途絶え、心配でアパートに行ってみたけどもぬけの殻。バーにも行っても閉店してて、愛華の行方がまったくもって分からねぇ。電話もメールも繋がらねぇし、不安で不安で……俺は狂ったように探し回ったんだ、」
話の途中で言葉を止めて、ふと本橋さんは愛華さんに目をやった。
愛華さんは固く目を閉じ、祈るように手を組んでいる。
「だがどこ探しても見つからなかった。……そりゃそうだ、愛華は俺に黙ってとっくに地方に越していた、見つかる訳がなかったんだ。でも知らねぇから、毎日毎晩探してよ、寝ても覚めても愛華のコトばっかりだった。そのせいで慢性的な寝不足で、一日中フラフラするしぼーっとして頭が回らなくなったんだ。そんな調子だから仕事に行ってもミスが多くなった。あの頃俺はとある会社の営業マンで、見積書の計算間違い、新規顧客の名刺を失くし、挙句の果てには朝起きられなくて客とのアポを飛ばしちまった、」
うわ……マジか……聞いてるだけで背筋が冷える……!
僕も昔、お客様相談窓口の前は営業部にいたんだよ。
だから分かる、イヤと言うほど分かりすぎる。
やらかしたそのミスはどれもこれもかなり重たい。
イチ社員が謝ってすむ問題じゃないだろう。
上司がお高い菓子折り持って、直接謝罪に行くレベルだ(しかも数回いかないとダメだろな)。
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