第二十四章 霊媒師 水渦の選択

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自嘲気味に苦く笑ってため息一つ、……いや二つ、いやいや三つ、四つ、五つ、六つに七つと、最後、本橋さんは頭を抱えてしゃがみ込む……が、すぐに立って、自身の頬をベシッと叩いて、話す為の気合いを入れた。 「アポを飛ばした日は夕方までグッスリ寝てた。目が覚めてからすっげー焦って、ケータイは会社の着歴でいっぱいで、それを見た時……ドッと疲れが出たんだよ。疲労困憊、もう無理だって思った。何もかもどうでもよくて、何をするのも面倒で、それで俺、次の日に会社を辞めたんだ」 また思い切ったな……会社辞めるの不安じゃなかったのかな。 収入とか、生活とか、そういうの。 僕が無職になった時は不安で仕方がなかった。 毎日毎日ハローワークに通ってさ、必死に仕事を探してた。 ああでも、本橋さんは……そこまで考える事が出来ない状態だったんだろな。 「しばらくは仕事もしないでボーッとしてよ、一人暮らしの汚ねぇ部屋で、一日中タバコばっかり吸っていた。ずっとそうしていたかったけど、すぐに金が無くなって家賃が払えなくなったんだ。それで仕方なく、どうにかこうにか仕事を見つけて働きだした。もう営業は懲り懲りだと思っていたから、人とあんまり話さなくて済む工場にいった、でも……社員にはなれなくて、派遣だから給料は安かったけど、寮に住めたし、そこそこ満足してたんだ。だけどな、何年かして、工場(そこ)をクビになっちまった。当時流行りの ”派遣切り” にあったんだ、」 聞いてるとクラクラしてくる、人生ハードモードだ。 完全に負のスパイラルに絡められてる。 キツイな……どこかで断ち切らないと、延々不運が続きそう。 水渦(みうず)さんは、苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。 いつもの彼女なら、”ひひ……ひひひ……” と、人の不幸に嬉々として笑うはず。 それをしないのは、”負のスパイラル” の起点を作ったのは自分、……という自覚があるからじゃないだろうか。 本橋さん、可哀そうだな……、好きな女性と結婚しようと、そう思っただけなのに。 それがまさかこんな事になろうとは……と、口にこそ出さなかったが、本橋さんに同情しかけた時だった。 このあと続く本橋さんのお話は、僕の想像を遥かに超えて……そう、同情心がガラガラと音を立てて崩れていった。 その話というのが……、 「あの時は本当に悲惨だった、……工場をクビになるイコール、寮からも出ていかなくちゃならねぇし、仕事と住まいを一度に失くしてホームレスになったんだ。俺、恥ずかしながら友達いねぇし、ここぞの実家は遠くてよ、簡単には帰えれねぇ。頼れる人が誰もいなくて、公園に寝泊りして、メシは閉店間際のスーパーで値下げのおにぎり買って食ってた。持ってる金は全財産の5万だけ。5万でどれだけ生きられるのか……計算するのも怖くてよ、それで、俺、ヤケになって、……残りの金、ぜんぶパチンコに突っ込んだんだ」 …… …………は、はい? パチンコ……ですか?
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