第二十四章 霊媒師 水渦の選択

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「5年前にも散々探した、……それでも愛華は見つからなくて、だから、メールの返事も来ないかもと思ってた。だけど賭けたんだ。写真が写真だ、もしかしたら、今回ばかりは慌てて返事を寄こすかもって。返事が来て……待ち合わせは、金が無くて電車にも乗れねぇから、野宿していた公園にしたんだ。そこで待ってる間、俺は昔の事ばっかり思い出してた。初めて出逢った時の事、付き合い出した時の事、それから……どれだけ愛華が好きだったか、そういうの、公園のベンチでずっと考えてた、」 「………………」 「その後、約束の時間をだいぶ過ぎてから愛華が来たんだよ。最初は愛華だと分からなかった。この5年、見ない間に愛華の見た目が変わってて、その……すごく驚いた。外見が変わった事も、本当に来た事も……今思えば、俺は相当テンパっていたと思う。気持ちが追い付かなかった。処理しきれなかった。久しぶりに会ったのに、やっと会えたのに、俺は愛華を脅す為に呼び出したんだ。最低だよな……愛華も災難だよ……俺なんかと付き合ったばっかりに……俺は本当に……“元カレはロクデナシ” 、どうしようもねぇ外道だ」 「………………」 「愛華はよ、メールを見て脅迫文だと分かっていたはずなのに、ニコニコ笑って、笑って……“本橋さん、メール嬉しかった” と言ったんだ……なのに俺、卑屈になってて、愛華の優しさを素直に受け止められなくて、仕事も家も金もなくなったから、愛華を揺するためにメールしたんだって、キレ気味にそう言って、……そしたら愛華、それにはなんにも答えずに、……俺に、俺に、腹減ってないかって聞いてきたんだ、」 「………………」 「正直……腹は減ってた、金が無くて食べられなくて、だけど、恥ずかしいからすぐに ”うん” とは言えなくて、そしたら愛華、俺に恥をかかせないよう、冗談を言いながら、うまく、うまく……俺をここに、【ラブフラワー】に連れて来て、温かい手料理を、うまいメシを……は、腹いっぱい食わしてくれたんだ、」 「………………」 「………………メシ、すごくうまかった。無我夢中で掻き込んで、腹がはち切れそうになって、そうやって腹がいっぱいになったら、……愛華を脅そう、金を揺するんだって黒い気持ちがスゥッと消えて無くなったんだ。……愛華のおかげだ。愛華の優しさ、気遣い、情の深さ、それが俺を救ってくれた。愛華のおかげで、俺は犯罪者にならずにすんだんだ。……あの時の愛華の顔、あの時のメシの味、俺は一生忘れねぇ、忘れられねぇよ……」 本橋さんは手の甲で、しきりと顔を拭ってた。 額に滲んだ脂の汗と、……それから、溢れてしまって止まらない涙の、その両方を。
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