第二十四章 霊媒師 水渦の選択

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口を真横に引き結び、再び黙る水渦(みうず)さんは本橋さんをジッと見た。 見られたままの沈黙に、本橋さんは汗を垂らして耐えている。 やがて、水渦(みうず)さんは下唇だけを噛んだ、……が、それをすぐに解放すると静かな声でこう言った。 「____先の事はさておいて。先程……、貴方が私に話した事に嘘偽りはないのでしょうか。姉を脅迫しようとしたが未遂に終わった、今は改心していると、その件についてです」 「も、もちろんだ……!」 「本当に? 一つも? 面倒なので詳しく説明しませんが、私に嘘をついてもすぐに分かります。やろうと思えば貴方の過去の、その全てを知る事が出来るからです。嘘偽りが無いと言うなら、今この場で確かめても良いですか?」 「…………俺の過去を知る事が出来る……? この場で……? そんな事……どうやって……? く……言ってる事が分からねぇ……けど……けど……いいさ! 俺は嘘は言ってねぇ! 気が済むまで調べてくれ!」 汗をたくさん掻いたせいで、スーツはすっかりシワクチャだ。 だけど、そんな事を気にする余裕もない彼は、調べてくれと2歩も3歩も前に出る。 水渦(みうず)さんは、いきなり近付く本橋さんに3歩も4歩も引きながら「汗臭い」と文句を言った。 そして、”クサイ” と言われてショックを受ける本橋さんを、スルーしながら愛華さんに向き直る。 「……姉ちゃん、今夜は帰るよ」 水渦(みうず)さんは言いながら、自分のカバンを手に取った。 愛華さんは慌てた様子で妹の手を掴む。 「か、帰るって……みぃちゃん待って、あのね、本橋さんの事、怒ってるの? ちがうの、お姉ちゃんが悪いの。お姉ちゃんがいきなり3人で住みたいって言ったから、その前に順を追って今までの事を話すべきだったのに……お姉ちゃん、みぃちゃんに会えたのが嬉しくて、夢みたいで、大好きなみぃちゃんと本橋さんと住めたらいいなぁって暴走しちゃって、それでそれで……ごめんねぇ……」 大きな身体をショボンと萎らせ、愛華さんはあやまった。 そんな姉を、水渦(みうず)さんは小さく笑って抱きしめる。 「もう……変わってないなぁ。姉ちゃん、昔からそうだった。嬉しい事があるとすぐに暴走しちゃうんだ。思い出したよ、いつもこんな感じだった。……あのね、今夜は帰るけど……怒ってるからじゃないの。だって私も嬉しかった。姉ちゃんに会えたんだもの。もう二度と会えないと思ってたから、嬉しくて嬉しくてどうにかなりそう」 「みぃちゃんも嬉しいの? ほんとう? じゃ、じゃあ、なんで帰っちゃうの?」 「ん……今夜はいろんな事がいっぺんにあったから、少し気持ちを落ち着かせたい」 水渦(みうず)さんはそう言うと、さっきそうしてもらったみたいに、愛華さんの頭を撫ぜた。 愛華さんは何かを言いかけ、だけど言葉が出る前に、水渦(みうず)さんは僕に向かって言ったんだ。 「岡村さん、帰りましょう」 と。
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