第二十四章 霊媒師 水渦の選択

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◆ 【ラブフラワー】の店の前。 本橋さんと愛華さん、2人並んで僕達を見送りだ。 「みぃちゃん、帰り気を付けてね」 愛華さんはそう言ったあと、すぐに僕の顔を見て、 「岡村さん、みぃちゃんを送ってあげてください。よろしくお願いします」 と頭を下げた。 「もちろんです。夜も遅いし、部屋の前まで送りますから安心してください。それと……さっきは僕までご飯をいただいちゃって、ありがとうございました。すごく美味しかったです」 「あんなので良ければいつでも食べさせてあげる。岡村さん……いろいろありがとうございました。あの……これからもみぃちゃんと仲良くしてあげてくださいね」 母心……に、限りなく近い姉心。 愛華さんの愛情が、言葉の端々に伺える。 本橋さんは姉妹の会話を隣で聞いていたのだが、その会話の僅かな切れ目、それを待っていたかのように、水渦(みうず)さんに声をかけた。 「帰り……気を付けてな。あと俺……次に会う時までに、話したい事うまくまとめておくから」 「そうですか。では、ぜんぶで3行にまとめておいてください」 「さ、3行!? いくらなんでもそれは無理だ!」 「では5行で。それ以上は聞きません」 「き、厳しい……分かった、なんとか頑張ってみる」 や、それ無理だろ。 声に出さずに突っ込みながら、僕は密かに大きく息を吸った。 腐敗の臭いがしない……ジャスミンの香りとはいかないが、嫌な臭いは消えている。 本橋さんの必死の言葉。 少しだけ……水渦(みうず)さんに響いたのかな? そうだといいな。 本橋さんは「5行……5行」と独り言ち、だけどいきなり後ろを向くと店の中にダッシュで入り、そして半瞬、あっという間に戻って来た。 その手には紙袋がぶらさがり、……あ、あれって、(ここ)に来た時に持ってた袋だ。 彼はそれを手に持って、なんだかソワソワ挙動不審。 な、なんだ? どうした? と思っていたら。 「水渦(みうず)さん、これ、」 目線を逸らしてぶっきらぼうに差し出した。 「…………なんですか? これ。随分と汚い袋ですね……」 汚いって……言い方。 確かに年季が入ってるけど、その言い方はダメだろう。 「ふ、袋がボロイのは……す、すまん。家に良い袋が無かったんだ。でも中身はボロくねぇ、腐るもんじゃねぇし、箱から出してねぇし、それに、」 しどろもどろで言い訳している本橋さん。 水渦(みうず)さんは若干イラッとしているようで、「だからコレ、なんですか?」と眉根を寄せる。 本橋さんはさらにしどろもどろになりながら、汗を掻いてこう言った。 「それ、水渦(みうず)さんにだ。本当は5年前に渡すはずだったんだ。最初に愛華にプロポーズした時、愛華に ”妹と一緒じゃなきゃ結婚出来ない” って言われて、俺、じゃあ一緒で良いよって答えて、それで、それでよ、その時に買ったんだ。水渦(みうず)さんに渡そうと思って。結局渡しそびれちまったんだが、ホームレスになってもこれだけはずっと持ってた。で……今日、やっと渡せるなぁって持ってきたんだ」 水渦(みうず)さんはそれを聞き、しばし黙っていたけれど……最終的には袋を受け取った。
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