第二十四章 霊媒師 水渦の選択

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◆ 【ラブフラワー】を後にして、僕らは電車に乗り込んだ。 朝ほどではないけれど、深夜の電車もそこそこ混んで、だから僕らはなんにも話さず、ただただ窓の外を眺めていた。 …… ………… 電車に揺られて30分。 水渦(みうず)さんの住む街、K駅に到着した。 電車のドアが開き、水渦(みうず)さんの後に続いて僕が降りると、 「岡村さんの家はF市ですよね、降りる駅間違えていませんか?」 と怪訝な顔だ。 だから僕は言ったんだ。 「アパートまで送るよ。夜遅いし、愛華さんとの約束だもの」 「……そう言えば、そんな話をしてましたね。ですが大丈夫です。一人で帰れます。私のような醜女(しこめ)を襲う人はいませんから」 「はぁ……またそういう事を言う。いい? 水渦(みうず)さんは醜女(しこめ)なんかじゃない。こんな時間に1人で帰らせる訳にはいかないよ」 「…………な、なにを言ってるんですか、大丈夫です、心配いりません。それに、私の家は駅から歩いて20分はかかるんです。私を送っていたら終電に間に合いませんよ」 「歩いて20分? マジか、そりゃダメだ、ますますイカン。だから送ってく。大丈夫だよ、K市から僕の家までせいぜい5~6km。電車がなければ散歩がてら歩いて帰るから。ね、大福」 『うっなーん!』 散歩と聞いてはしゃぐお姫にドンケツされて(2回目)、コントみたいによろけた彼女は、ためらいがちに僕を見ると「……ません」と小さく言った。 口を尖らせ困った顔で、だけどもう、断る事もしなかった。 「ヨシ、決まり! さあ、帰ろう。……で、ドッチに行けば良いのかな? かな?」 駅を出てキョロキョロしながら聞いてみた。 そりゃそうだ、僕は彼女の家を知らないもん。 聞けば当然、すぐに教えてくれるもんだと思っていたのに……さっきの仕返しなのか、水渦(みうず)さんはイジワル顔で言ったんだ。 「さぁ、ドッチでしょう。私に聞かなくても霊視すれば良いじゃないですか」 「ななっ! 霊視って……そりゃあ視れないコトもないけど……(キョロキョロ)、駅だし、人もけっこういるし、ココで印を結んでイロイロするのはチョット……勇気が……って、んもー! イジワルしないでとっとと教えてよね! そうでないとおんぶで送っちゃうんだからねっ!」 「お、おんぶ……!? それはイヤです、コッチです、この道右です!」 ”きゃー” とまでは言わないけども、そんなにおんぶがイヤなのか、案外アッサリ教えてくれた。 僕に捕まらない為か、水渦(みうず)さんは言った道に走り出す。 「えぇ! いきなり!? ちょ! 待って! てか送る意味! 僕を置いてってどーすんのー!」  慌てる僕に振り向きながら、水渦(みうず)さんは楽しそうに笑ってた。 あ……はじめて見たよ、アナタがさ、こんな風に笑う顔。 いつもみたいな皮肉の混じった ”ひひひ笑い” じゃなくってさ、もっと単純、力の抜けた子供みたいだ。
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