第二十四章 霊媒師 水渦の選択

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駅を背中に右折で真っすぐ。 車が行き交う街道沿いを僕らは並んで歩いてた。 少し前には大福もいて、走ったり止まったり、街路樹に登ってみたりと深夜の散歩を満喫中だ。 秋の夜は肌寒いけど、歩いていればそうでもなくなる。 寒い分だけ空気は澄んで、月は空を蒼い光で滲ませていた。 アパートまでの道のりを、霊視で探せと冗談めいた水渦(みうず)さん。 楽しそうに目尻を下げて、子供みたいな笑顔を見せた。 今は黙って僕の隣を歩いてる。 特にはなにも話さなくって、だけど、その横顔は穏やかで柔らかい。 しばらくそのまま歩いていると、ふと、水渦(みうず)さんが足を止めた。 僕もつられて足を止めると、彼女は突然、空を見てこう言ったんだ。 「…………月、綺麗……」 その時の声、その時の顔。 まるで月を生まれて初めて見たような……そんな事はあるはずないけど、でも、そんな風に見えた。 水渦(みうず)さんは顔を上に向けたまま、口をポカンと開けたまま、蒼い月をただただジッと見つめてたが、やがて目線を僕に移すと、 「岡村さん、少しだけ付き合ってもらえますか」 運行もとっくに終わったバス停の、そのベンチを指差した。 …… ………… 2人で並んで座ったベンチ。 木目模様で背もたれはない。 浅く腰掛け空を見れば、月が真上に浮いている。 車の通りはうんと減り、人の通りはもっとない。 「…………あの、」 言いかけた水渦(みうず)さんだが、その後に続く言葉が中々でない。 僕は気長に待っていた。 色々話したいのだろう、だけどきっと、なにから話していいのか分からないのだろう。 なんといっても今夜、5年振りにお姉さまに会えたのだ。 フラットを装ってるけど、ココロの中は春の嵐に違いない。 「…………あの、……本橋さんが私にくれた物、それを一緒に見ていただけませんか?」 そうだ……本橋さんは帰り際、水渦(みうず)さんに紙袋を手渡した。 本当は、5年前に渡したはずの水渦(みうず)さんへのプレゼント。 それがどんな物なのか、実は僕も気になっていたのよね、……で、でもさ、 「一緒に見るのはもちろん良いよ。でもさ、ココで開けるの? 外よ? バス停よ? こういうのって家で落ち着いて開けるもんじゃないの?」 気になってそう聞くと、 「良いんです。1人でいるより岡村さんと一緒の方が落ち着きますので、」 事もなくサラリと答えて、水渦(みうず)さんは紙袋に手を入れた。
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