第二十四章 霊媒師 水渦の選択

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ガサゴソガサゴソ、 紙袋から出てきた物、それは四角い箱だった。 ピンク色の包装紙、赤いリボンが十字に巻かれた可愛らしいラッピング。 だけど……よくよく見れば、紙もリボンも色が褪せ、箱の四隅は小さく潰れてひしゃげてる。 それは、渡しそびれて5年の月日が経ってる事を物語るようだった。 その箱を両手で持って、まじまじ見つめる水渦(みうず)さんは、 「姉以外で……人からプレゼントをもらうのは初めてです」 と落ち着きがない。 「開けてみたら?」 いつまでも眺めたままの、水渦(みうず)さんにそう言うと、コクッと頷き色褪せた包装紙に手をかけた。 薄皮を剝くように、丁寧にゆっくりと紙を外すと茶色い箱が現れた。 その蓋をそっと開け、取り出してみると…… それは白い木箱だった。 表面には……カスミソウだろうか?  箱全体に花の彫刻が施してある。 蓋は上開き、背面の蝶番はレースのような凝ったデザイン……まるで宝箱みたいだ。 「…………………………」 水渦(みうず)さんは……固まっていた。 目をまるくして、声も出さずに、宝箱を見つめていた。 「綺麗な箱だね」 そう、声をかけた。 いつまでも固まって、なにも言わないから。 「蓋、開けてみようよ。箱がこんなに綺麗なんだもの。中がどうなっているのか見てみたいよ」 さらにもう一声。 中が見たいと言った僕に、水渦(みうず)さんはワンテンポもツーテンポも遅れを取りつつ頷くと、丸い手でその蓋を____ ____開けてみる……と、 音が……流れてきた。 高いキー、 繊細で、 優しくて、 月の光が雫となって落ち降るような、 そんな綺麗な音だった。 「オルゴール……ですよね、」 ベルベットの敷き詰められた、箱の中をジッと見ながら水渦(みうず)さんが呟いた。 「うん、オルゴールだ。すごく綺麗な」 「これを……私に……?」 月の雫を耳にしながら戸惑うように僕に聞く。 「そうだよ、水渦(みうず)さんにだ。本橋さん……きっと一生懸命選んだんじゃないかな。だって見て、お花の彫刻こんなに綺麗だもの。音も綺麗でいつまでも聞いていたいよ」
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