第二十四章 霊媒師 水渦の選択

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それから____ 僕らは深夜のバス停で、脱線しながらいろんな事を話してたんだ。 本当はさ、長くなるなら夜遅くまで開いている、ファミレスにでも行けば良かったのかもしれない。 でも、そうはしなかった。 たぶん……たぶんだけど、水渦(みうず)さんは人のいるファミレスよりも、ほとんど人の通らない、街道沿いのベンチの方が落ち着くんじゃないかなぁって、そう……思ったからだ。 …… ………… 「えぇ! 水渦(みうず)さんが地図ばっかり見てたのは……」 「はい、妄想する為です。地図を見ながら、もしかしたら姉はこの街に住んでいるかもしれない、いや、こっちの街かもしれない……と。この5年間、地図上では全国を回りました」 近くの自販で買ったコーヒー。 これをゴクリと飲みながら、水渦(みうず)さんは恥ずかしそうにそう言った。 や……そうなの? そうだったの?  地図ばっか見てたのはそういう理由だったの? てか妄想って、地図を見ながら妄想ってナニよ。 だってアナタ、手練れの霊媒師じゃない。 霊視をすればノーヒントでも、3日もあれば余裕で探しだせるでしょうよ。 なのにさ、それをしないで地図を見て、 ____ここかなぁ? それともこっちかなぁ? ____この街ならうどんが有名、 ____こっちの街ならブドウが有名、 ____美味しいもの食べてるかなぁ? ____元気でいるかなぁ? ____ほ、ほんとうは会いたいよ…… とかやってたの?…………ブワッ!(涙腺崩壊) もう……健気で泣けてきちゃう! 霊視をすれば簡単なのに、出来ないゆえの代償行動。 水渦(みうず)さん、自分の ”やらかし” に自分が一番やられてたからねぇ。 大好きな愛華さんを探そうとすると、手指が震えて印が組めなくなるくらい。 だから地図、だから妄想、……そんな事を5年間も……ブワッ!(涙腺崩壊2回目) 「ちょっと……岡村さん、泣かないでくださいよ。引くのは分かりますが、そのおかげで道に詳しくなりました。特に、関東甲信越なら、隅から隅まで頭の中に入ってます。初めて行く場所でも決して迷いません」 僕にティッシュを差し出しながら、何気、スゴイコトを言ってのけた水渦(みうず)さん。 僕はガチで驚いて、 「え? ウソでしょ? 関東甲信越って範囲広くない? その地図が頭の中に入ってるの? 初めてでも迷わないレベルで?」 半信半疑で聞いてみるも「はい」とアッサリ肯定だ。 「うひゃー! すごいなー! だから現場に行く時、地図もナビも見ないんだ。すごいよ、才能だね!」 「そうでしょうか……岡村さんだって5年も地図を眺めていたら覚えますよ」 「そ、そうかな? や、でも、その前に5年も地図見てらんないかも」 「ふぅん……楽しいのに、」 水渦(みうず)さんは心底不思議な顔をして、首を横に傾けた、……って、ちょ、どーしよ。 僕はなんだか、そんな様子がおかしくてたまらなかった。
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