第三章  霊媒師研修ー1

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社長はホワイトボードの横に置かれた段ボール箱から使い古したフライパンを取り出すと、 「こんな事もあろうかと用意しておいたんだ! 良く見てろよ?」 研修には場違いなアイテムに何を想定したんだろう、と、呆気にとられて見ていると、社長は両手でフライパンを掴み、首をコキコキと鳴らす。 そして、 「だぁぁっしゃっ!!!」 グシャッ! まさに秒だった。 先程まで真円の形状をしていたフライパンが、両方向から加えられた圧倒的な力によって蛇腹にひしゃげ潰された。 「な? 俺、エイミーが思ってるより多少は力があるんだ! だから安心してかかって来い!」 いやいやいやいやいや! 多少じゃないです! それ以上です! こんな人間凶器みたいな人に冗談でも戦いを挑む訳ないでしょう! 僕は半泣きでフルフルと首を振った__もちろん、横にだ。 「エイミー、まだ遠慮してるのか……意外と真面目なんだな。仕方ない俺から行くぞ!」 更に高速で首を振る僕に、「はは、そういうのもういいから」と、手を挙げて制した社長は、拳法のような構えをとった。 僕は__ 生まれてこの方、喧嘩らしい喧嘩はした事がない。 趣味なんてものは無いけど、休日にはのんびりと散歩をして疲れたらカフェに入ってお茶を飲むのが楽しみだ。 そして今はワンルームの小さなアパート暮らしだけど、そのうちもう少し広くてペット可のアパートに引っ越したら、そこで猫を飼うのが夢なんだ。 血統証なんて付いてなくていい。 雑種でなるべく不細工な猫を引き取りたいと思っている。 だって、そういう()は良縁に巡り合えるチャンスが少ないかもしれないだろう? 僕がその()のお父さんになって一生幸せなニャン生を送らせてあげるんだ。 だからこそ、新しく決まったこの仕事を頑張ろうと希望を胸にやってきた。 なのに……なのに……この状況なんなんのぉぉぉ! 正直言ってめっちゃ恐いんですけどぉぉぉぉぉ!!
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