第八章 霊媒師と大福ー1

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幼い頃の私は本当に単純だった。 この世のすべては、”好き”と”嫌い”で分けるだけ。 ごはんは、好き。 遊びも、好き。 ふかふかの布団も、好き。 嫌いなのは病院。 あとは……うーん、ないかな。 好きはもっとある。 たまにもらえるオヤツが、好き。 ダンボール箱も、好き。 スーパーのビニール袋も、ネズミのオモチャも、毛糸のボールも、好き。 でも一番好きなのは、お姉ちゃん。 優しくて、あったかくて、おいしいごはんをくれて遊んでくれる。 幼い頃の私が母猫とはぐれ、カラスに襲われているところを助けてくれたのも、家に連れて帰ってくれたのも、反対する家族に泣きながら頼んで私を迎えてくれたのも、みんなみんな、お姉ちゃん。 お姉ちゃんがいなかったらきっと私はもっと早くに死んでいた。 楽しい事もなく、おいしいごはんも食べられず、車やカラスに怯え、常に死と隣り合わせだった私に深い愛をくれた人。 私はお姉ちゃんが大好きだった。 後から知ったのだが、猫の成長は人の子の何倍も早いのだそうだ。 私をカラスから守ってくれたお姉ちゃんは当時小学生。 私は生まれて2カ月にも満たない幼子で、私達は共に成長していった。 お姉ちゃんは私にとって、母であり、姉妹であり、時に子供だった。 お姉ちゃんは身体は大きいのに動きは鈍く、虫一匹でこの世の終わりのような悲鳴を上げて泣いてしまう。 普段は軽々と私を抱き上げる頼もしさを見せるのに、虫ごときでなんたる情けなさ。 よし、ここはひとつ私がお姉ちゃんを助けてあげよう。 ほんの片手間で虫を瞬殺する私に、お姉ちゃんは『ありがとう、ありがとう』と言って抱き締めてくれた。 『ありがとう』の意味はわからないけど、嬉しそうにしているから、きっと喜んでいるのだろう。
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