第八章 霊媒師と大福ー1

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お姉ちゃんが大学というところを卒業して就職というものをした頃、人の時間では15年の時が経っていて、当時7才だったお姉ちゃんは22才に、私は15才になっていた。 その頃の私は一日のほとんどを寝て過ごしていた。 眠くて眠くてたまらない。 大好きだったオモチャも、ダンボール箱も、あまり興味が湧かなくなった。 ごはんは食べるけど、少し食べればおなかいっぱい。 たまにもらえるオヤツだって半分でもう充分。 おかしいなぁ、お姉ちゃんは変わらず元気なのに、私はどうしてこんなに眠いのだろう? お姉ちゃんと初めて会った頃の私はまだ幼子だったのに、一緒に暮らして同じ時間を過ごしたはずなのに、どうしてなんだろう? さらに5年の月日が流れ、お姉ちゃんは27才、私は20歳になった。 猫の20才いうのは人の子の年にすると96才になるのだそうだ。 お姉ちゃんのお母さんも年を取って動きがより鈍くなっている。 そんなお母さんよりも年上になってしまったのだから、私の身体が思うように動かないのも納得がいく。 ところで、私は20才を過ぎてから唐突に人の言葉が理解できるようになった。 なぜ解るのかはわからない。 まぁ、長いこと人の家族と暮らしているのだから、自然に覚えたとしても不思議ではないのかもしれないが、理解できるようになると共に私は単純ではいられなくなった。 “好き”と”嫌い”たったそれだけで成り立っていた私自身に新たな感情が加わった。 お姉ちゃんが仕事でいない昼間。 私は彼女の匂いでいっぱいのベッドで眠るのが日課だった。 ここは安心できる。 いないのにいるような、柔らかであたたかい胸に包まれているような”安心感”。 それでいて、やっぱり本物のお姉ちゃんに撫でられたい、抱っこされたいという”寂しさ”。 夜遅くに帰ってきたお姉ちゃんに、やっと逢えたという”喜び”。 それらも大きく分ければ”好き”と”嫌い”なのだろうが、この2つの感情は細分化され、より細かな感情が生まれたのだ。
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