第八章 霊媒師と大福ー1

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単純なままで良かったのに。 私はそう何度も思った。 言葉がわかるという事は、聞きたくなかった、知りたくなかった事もわかってしまう。 15才を過ぎた頃から思うように身体が動かなくなったのは”老化”が原因なんだそうだ。 年を取ると徐々に身体が衰える。 衰えてくるとやたらと眠くなり、1日のほとんどを寝て過ごす。 食欲がなくなり、遊びに興味が持てず、高く飛ぶことも、早く走る事も難しくなる。 そして更に年を取ると、やがて身体は動かなくなり死んでしまうのだ。 私は恐怖した。 “死”というものがなんであるか、それは解っていたつもりだ。 だが、短い路上生活で見てきた仲間の死というものの大半は、交通事故によるものだった。 私は完全室内飼いの猫。 家の中はどこに行っても咎められる事はない。 後から知った事だが私がどの部屋に行っても危険がないように、お姉ちゃんが、家族が、家具や置物に相当の配慮をしてくれていたのだ。 ゆえに家の中は絶対的に安心できる。 当然、車だっていない。 私が交通事故に遭う確率はゼロに等しい。 だから勘違いしていたのだ。 “年を取って老化”が進んでも、身体がだるくなるだけで死ぬ事はないと、いつまでも永遠にお姉ちゃんと一緒にいられるのだ、と。
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