第八章 霊媒師と大福ー1

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◆ あの世とこの世の境。 その中でも特別な場所がある。 そこは広大な大地にたくさんの花が咲き、流れる小川の水はいつだって清らかだ。 ここは”虹の橋のふもと”と呼ばれる一角で、生前、人に飼われていた動物達が、のんびりと遊びながら飼い主が迎えに来るのを待つ事ができる場所。 犬や猫はもちろん、ウサギに鳥に亀やヘビ。 ありとあらゆる動物達が争う事もなく、実にゆったりとまったりと、愛する飼い主を待ち続けている。 あれから____ どのくらいの時が過ぎたのだろう。 病と老いに蝕まれていた肉体を現世に残し、光る道をひた走りここに辿り着いた。 黄泉の国の役人に生まれ変わりを勧められたが、私はそれを断り”虹の橋のふもと”でお姉ちゃんを待つ事にしたのだ。 ここに入場するにあたり、たくさんの注意事項やら免責事項を説明されたのだが、それを理解できた動物はほんの一握りのようだった。 私のように人の言葉や文化を理解した動物が極端に少なくて、同時期に入場したフェレットなんて途中で居眠りをしてたっけ。 まったく……あの世という場所は、たくさんの死者を受け入れてきたであろうから、頭の良い人間や、高い技術を持った人間だって大勢いたはずだ。 その人間達に依頼して、人語を理解しない動物達との意思疎通を図れるような道具は造れなかったのか? まあ、いい。 きっとそんなものはいらないのだろう。 ここにいた動物達は時は違えど、次々に飼い主が迎えに来て感動の再会を果たしている。 いつぞやの居眠りフェレットも厳つい大男が泣きながら迎えにきていたのだから。 ここでの私は人間界で言う”ボス”のような存在になりつつあった。 新しく入った動物達は必ずと言っていい程、私に挨拶にくるのだ。 それだけ長いことこの場所にいるという証拠なのだが、それでもいいと思っていた。 迎えが来ないという事は、それだけお姉ちゃんが長生きしてくれているという事なのだ。
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