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それ以来、純白のハムスターとは毎日一緒だった。
なにをする訳でもないのだが、この小さなネズミっ子といると妙な安心感というか懐かしさというか、そういった感情がないまぜに湧き上がる。
自分と同じ雪色の毛皮で親近感がうまれるのだろうか?
ネズミっ子は私の背に乗り、頭に乗り、時に尻尾にしがみつく。
私はネズミっ子を喜ばせようと、ゆっくり左右に尻尾を振った、が、それは小さな子を怖がらせてしまったようで、尾の先をガブリと噛まれてしまった。
「痛い! あぁ、でもだいじょうぶよ。ごめんね、あなたには高かったのね。恐がらせた私が悪いわ」
お姉ちゃんも褒めてくれた自慢の長い尻尾は、噛まれた事で鮮血が滲んでいた。
死んでいるのに痛みもあれば血も出るなんて……おかしなものね。
私は傷ついた尻尾よりも先に、自分のやらかした事にひどく落ち込むハムスターの頭をぺろりと舐めた。
そして、
「もう気にしなくて、」
”いいんだよ” と続けようとしたその時。
「小雪ーーーー!!」
私の背後から、あれから一度だって忘れる事のなかった、懐かしくて大好きな声が聞こえてきた……!
まさか……まさか……お姉ちゃん……!?
私の身体は硬直する。
「小雪!小雪!」
ああ!やっぱり間違いない!あの頃より少ししわがれてはいるがお姉ちゃんの声だ!
やっと、やっと迎えに来てくれたんだね!
逢いたかった! 寂しかった! 長かった!
嬉しい! 嬉しい! 嬉しい!
抱っこ! 抱っこしてよ!
ザッザッザッザッザッザッ!!
走り寄る足音、鼻をすすりながら何度も"小雪"の名を呼ぶ涙混じりの声。
瞬きすら惜しくなる。
目を耳をすべてをお姉ちゃんに向け、懐かしさと嬉しさに足が震え、幸せで、すぐにでも抱きつきたくて、お姉ちゃんの胸に駆けようとした____それなのに。
私よりも早く走り出したのは純白のハムスターだった。
小さな手足を必死に回転させて途中草花に転びながら、それでも何度も立ち上がりお姉ちゃんの元へひた走る。
え…………、
なんで……ネズミっ子が…………?
「小雪ーーーー! 逢いたかったーーーー!!」
私の目の前で、ずっとずっと待ち続けた大好きなお姉ちゃんは純白のハムスターを大事そうに両手に包み頬擦りをして泣いていた。
「小雪! 小雪!」
ずいぶん年は取っているけど、声も顔もお姉ちゃんに間違いない。
私はずっとお姉ちゃんを待っていたのに、”小雪”は私の名前のはずなのに。
だけど、お姉ちゃんは私を見ていない。
愛おしそうに抱くのは、私と同じ白い毛皮のハムスターの”小雪”だった。
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