第八章 霊媒師と大福ー2

5/13
前へ
/2550ページ
次へ
まずは濡れた手足をペロンペロン。 次は……よいしょっと。 ちょっと深めに座りなおして、やわらかお腹をペロンペロン。 言っとくけど、猫のお腹がタプタプなのは決してだらしがないからじゃないのよ? これはルーズスキンといってわざとだぶつかせてるの。 だって猫って動きが激しいじゃない。 手足をぱぁっと広げて飛び降りたり、瞬時に身体を伸ばしてジャンプしたり、そんな時お腹の肉に余裕がなければ突っ張っちゃって、柔軟な動きができなくなる。 このタプタプルーズスキンがあるからこそ、ジャッキー・〇ェンばりのアクロバットが可能になるんだから。 誤解しないでよね。 「ぷっ」 え……? なに? 頭の上から小さく吹き出す笑い声が聞こえた。 私は思わず動きを止めて顔を上げる。 と、そこには石甕で隣にいた若い男が立っていた。 立っているだけなら気にもとめまい。 だけど、この男。 なにをどうしたら、そんなにだらしのないニヤケ顔になるのかってくらいの気持ち悪い顔で私を見ているではないか。 偶然か……? たまたまこちらを見ているだけか? 人の子に幽体である私が見える訳ないだろうに。 私が見えてないとして、なら、なぜこの男は何もない参道を、そんなに気持ち悪い顔で見てるのか? その時ふわりと風が吹き、私の肉球と同じピンク色の花びらが渦巻きのように舞った。 …… ………… ふむ。 まぁ、春だしな。 そういう事もあるのだろう……って、 ニャニャーーーーーーッ!! あろうことかこの男! 私に向かってゆっくりと瞬きを始めたではないか!! キモ…… 瞬き3回のうち1回の割合で白目になってる。 こやつ……やはり私が視えているのか……? だとすると、この瞬きは男なりの友好のサインである事はなんとなく伝わるが……。 だけど、本当に私の姿が……? いいだろう、確かめてやる。 私はすっくと立ち上がると長い尻尾を揺らめかせ、ゆっくりと男に近づいていった。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加