第八章 霊媒師と大福ー2

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◆ 男は嬉々としたニヤケ顔で私に向かって白目をむいている。 繰り返す瞬きを止める事無く、しゃがみ込んだ体勢から団子のように身体を丸め、地べたに直接、猫でいうなら香箱座りをする男。 はて、大人の人の子であれば衣服が汚れるのを嫌い、外でむやみやたらに転がる事などなかろうに。 私が"虹の橋のふもと"にいるあいだに時代は変わったのか? と、思ったのも束の間、通りすがりの幼子を連れた女人が「見ちゃいけません!」と、驚愕の顔で男を一瞥すると足早に過ぎ去っていった。 うむ、やはり大人の人の子が外で転がるのは、現代でもおかしな事なのだな。 …… ………… ………………この男、もしかして馬鹿者なのだろうか? それにしても、だ。 やはりこの男、私が視えているようだ。 さっきから男の目は、私の動きに合わせて右に左に忙しい。 驚いた……。 誰もかれも私の姿など視えないものだと思っていたのに、この男は違ったのだ。 おや?おやおや……? なんだろう?この気持ち。 ついさっきまで感じていた、夜の大海にひとニャンきりのような孤独感が少しだけ薄れていくではないか。 恐ろしい闇の中、ぼんやりと浮かぶ淡い光を見つけたような……ような……ような? 改めて淡い光かもしれない男を見ると、恥も世間体もクソ食らえの精神で私に好意を伝えようと必死にパチパチを繰り返し、目が合うたびに小声で「キャッ♪」とか漏らしてる。 だいじょうぶか? なんだか男が心配になってきたぞ。 気を取り直し、少々の難はあるものの私に猛アピール中の男への挨拶を兼ね、情報収集をしてみる事にした。 スンスンスンスン…… まずは香箱座りの男の(人の子が香箱になるのは初めて見た)両手を匂ってみる。 次に男の鼻先を、そして華麗なターンで方向転換しつつ脇腹へ移動。 うむ、ここまでは特に問題無し。 猫はキレイ好き。 不潔な人の子は嫌いだけど、コヤツは合格。 “虹の橋のふもと”にいたころに嗅いだ、お花の匂いがする。 とはいっても、所詮人の子。 これはアレだ、本物のお花の匂いじゃぁない。 お母さんも洗濯の時によく使っていた柔軟剤の匂いなのだろう。 でも、まあ良い匂い、キライじゃない。 さて、ここまではほんのご挨拶。 これからが本番よ。 私は更に後方へと回り込み、男の尻を目指す。
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