第八章 霊媒師と大福ー2

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猫の尻というのは個猫情報の塊である。 尻の匂いを嗅げば、その猫がどの辺りに住んでいるのか、年齢、体調、そういった事までわかってしまうのだ。 猫と人の子、種族は違えど尻につまった情報量に差はあるまい。 スンスンスンスン…… 私は男の足の裏に乗っかると、さっそく尻の匂いを嗅ぐべく首をのばした。 が、oh……そうだった。 人の子というのは我々のような艶々でふわふわな毛皮がない。 毛皮のかわりに”服”というものを着て、暑さ寒さに対応しているのだ。 コヤツも”じーんず”というものを履いているがゆえ、ダイレクトに匂う事ができないではないか。 ふん、ちょこざいな。 猫の嗅覚を甘く見る事なかれ。 悔しいかな犬には負けるが、人の子の嗅覚に比べたら数万倍は上なのだ。 見ておれ、いざ! フゴフゴフゴフゴ!! 私は嗅覚をフル回転させ、"じーんず"越しの男の匂いから情報を収集する。 人の子年齢で30才…… なぬ?30才とな、若く見えるがけっこうオッサンなんだな。 家は……近所か、そう遠くない場所に住んでいる。 体調は……なんだコヤツ、けっこう疲れているじゃないか。 ここ最近徹夜をしていたんじゃないか? 睡眠時間が足りてない。 もしかして”仕事”というものが大変なのか? お姉ちゃんもよく「仕事疲れたー!辞めたいー!」なんて言っていたっけ。 まぁ、疲労は見えるが、特に目立った疾患はない。 おめでとう、すこぶる健康体だ。 私は基本的な個人情報を入手して気が済むと、一周回って男の鼻先まで戻ってきた。 コヤツ……なんで私の姿が視えるんだろうな。 いわゆる霊感体質というものだろうか? 仕事は何をしているのだろう? 平日の昼間っからこんな所をウロウロして、猫に(私にだけど)うつつを抜かしてからに。 どうせ大した仕事ではないのだろう。 そんな顔だ。
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