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男は相変わらず、パチパチしながらのニヤケ顔で私を見詰めている。
最初こそ気持ち悪いヤツ……と思ったが、男の情報を得た事により多少の親近感が生まれたのか、その、なんていうのか……そう、まんざらでもなくなってきた。
なんてちょっと気を抜いたその時、男の人差し指が私の鼻先に、宙を泳ぎながら近づいてきた。
ああ、なに?軽いご挨拶?いいわよ、
私はその指先に自分の鼻をくっつけようと、ニュウッと首をのばした。
だけど……
ハッ!やっぱりダメ!
私は寸前で顔を背け、挨拶を拒否。
ツンとすまして空を仰いだ。
視界の隅に映る、男の寂しそうな顔が私の胸をチクリとさせる。
違う、別に男と鼻挨拶をするのが嫌だった訳ではない。
ただ、男に私が視えていても、所詮は幽体。
男の指先は、私の鼻を捉える事なく素通りしてしまうだろう。
そうなったら、きっと男は私を気持ち悪がってどこかに行ってしまうかもしれない。
それが恐かったのだ……が、笑止。
挨拶寸前で一方的な拒否をした私に男は怒っているはずだ。
もう遅い。
どっちにしたって、どこかに行ってしまうんだよ。
この男が去れば、また私は夜の大海にひとニャンきり。
だが、それも仕方あるまい。
やってしまった事は戻せないのだから____って、なぬ?
怒ってしまったとばかり思っていた男は、私の予想のはるか彼方のずれた場所から不死鳥のごとく舞い戻ってきた。
「シロネコちゃぁん、かわいいねぇ、キレイだねぇ、ツヤツヤだねぇ、」
脳天突き抜けるような甲高い声で私をベタ褒めにし、クネクネ地を這う男の姿に私は思わず呟いた。
正気の沙汰じゃない____
なんだ!?コヤツは!
あまりにも馬鹿者すぎっ!
正確に言えば、猫馬鹿すぎるっ!!
お姉ちゃんも結構な猫馬鹿だったけど、この男、その比じゃないっ!!
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