第九章 霊媒師 弥生ー1

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駅を背中に真っ直ぐ100m。 僕の足で歩けば1分程度で到着できる好立地に会社がある。 レンガの外壁に蔦が絡まる三階建ての古いビルで、玄関口の横には『株式会社おくりび』の看板が、春の陽射しに鈍く反射していた。 「あぁ、着いちゃった。休みってあっという間に終わるんだよなぁ……」 この会社に入って初めての休みは充実していた。 なんとなく出かけた散歩で猫又のお姫様と運命の出逢いを果たし、”大福”と名付けさせていただいて一緒に暮らす事になったのだ。 同棲開始からこの2日間、そりゃあもうイチャイチャ、キャッキャと……そう、例えるなら、ハチミツと練乳とチョコレートを混ぜ合わせたような甘くとろける幸せな時間を過ごしている。 昨晩だって、夜行性の大福と明け方4時近くまで眠れぬ夜を共に……にゃっはー! 思い出しただけでニヤけちゃうよ! あ、帰りにアルミホイル買っていかなくちゃ。 昨日(今朝?)家にあったアルミホイルみんな丸めて投げまくったから、なくなっちゃったんだよねぇ。 大福はアルミボールで遊ぶのが好きみたい、アルミなんかで喜んでくれるなら、いくらだって買っちゃうよ! 「ねっ、大福!」 うなぁーん 僕の足元でエレガントに座る大福は、今日も宇宙一カワイイ。 あぁ……猫又って、幽霊猫って最高。 だって他の人には視えないんだよ? って事は、ペット不可のアパートでも暮らせるし、物体をすり抜けるから交通事故の心配もない、そしてなにより電車に乗って一緒に外出できるんだから、もう……マーベラス!! と、いう訳で、浮かれまくりで会社に連れてきちゃったけど……大丈夫かなぁ。 確かに一般の方々に大福の姿は視えないけど、ウチの会社の人達じゃあ全員確実に視えちゃうだろうし……。 入社して一週間の新人が猫連れて出勤って……どう考えてもダメだよねぇ。 でも……大福は霊体だ。 猫アレルギーの人にも無害だし、トイレだって行かない、人の言葉がわかるから静かにしてねといえばわかってくれる。 それにだ、今日も出社してるのは社長と僕と先代くらいなものだろう。 まだ会った事のない先輩霊媒師の皆さんは、基本直行直帰だって聞いている。 よし……ダメ元で行ってみよう。
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