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「ねぇ、先代。この猫エイミーちゃんの大事な子なんだって。どうにかして会社の中に入れるようにできないかな」
僕らより少し遅れてやってきた先代に、大福が社内に入れるようにしてくれないかと頼んでくれているのは弥生さんだ。
本当なら僕が頼むべき事なんだけど、大福が意識を失った事でみんなを巻き込みあれだけ大騒ぎしてしまったのだ。
これ以上迷惑をかける訳にはいかない。
僕は涙を呑んで大福の丸い顔を包み「やっぱりお庭で待っててくれる?」と、後頭部に熱い接吻の連続技を繰り出していたのだが、そんな僕を見かねたのだろう。
弥生さんは出社してきた先代に、開口一番で交渉してくれたのだ。
ありがたいなぁ……でもね、そのお気持ちだけで充分です。
だって社長の結界は完璧だもの。
こんな強固な結界を大福が突破するのは無理だろうし、もしまたなにかあったら僕は後悔しきれない。
「弥生ちゃん、おはよう。ん? 岡村君の大事な猫? 猫の1匹くらい私の許可なんていらないよ、入れてあげればいいじゃない。えっ? 事情があるの? ん? あら? あらら、そうか、この猫ちゃんか」
言いながらしゃがみこんだ先代は、大福の顎の下をコチョコチョしながら、まじまじとその顔を見ていた。
先代と大福、幽体同士は触れ合う事が可能なのだ。
「そうなの、この猫なのよ。せっかく会社につれてきたのに結界に弾かれちゃってねぇ。それでさっきエイミーちゃん大泣きしちゃったの」
や! ちょっと! 弥生さん!?
大泣きとかそういう話はしなくていいですって!
「あらら岡村君、大泣きしちゃったの? まあ、まだ岡村君は小さい子だから仕方ないねぇ。気にする事ないよ」
えぇ!?
なに言ってるんですか、先代!
僕30才ですよ?
いいオッサンですよ?
そんな中年つかまえて”小さい子”っておかしいでしょう?
失礼ながらボケたのか?
てか、幽霊でもボケるのか?
とにかくそのへんキッチリ突っ込もうかと思ったその時、酒焼けのしゃがれた声が滑り込んできた。
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