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「事務の人また辞めちゃったの?」
紙コップに淹れたコーヒーをグイッと飲みながら、交通費の清算をセルフでしている弥生さんが呆れた声を上げた。
そっか、ウチって今、事務員さんいないのかぁ。
そう言われてみれば面接の時も、座学中も、社内にいたのは先代と社長だけだったな。
「そーなんだよ。この建物はしっかり結界張ってるし霊が社内に入る事もないのによ。入ってしばらくすると『やっぱりなんか怖いです』とか言って、すぐ辞めちゃうんだ。今はまだいいけど早く誰か来てもらわないとヤバいよなぁ。これから夏で繁忙期になるっつーのに、俺だけで受付から事務処理とかできねぇよ。誰かいねぇか?幽霊にアレルギーがなくて、すぐ働けて、長く勤めてくれるようなヤツ」
やれやれみたいな両手を上げるリアクションで溜息をつく社長。
腕組みをして唸る弥生さん。
大福とキャッキャと遊んでいる先代。
僕はそんな中、おずおずと手を挙げた。
「あのぅ……社長、いいですかね? 事務の求人の件なんですが、幽霊にアレルギーのない現在無職で求職中の子が1人いるんですが……」
「マジか! そんなヤツがいるのか!? なぁエイミー、そいつにすぐ連絡取ってくれよ! 今無職なら他で仕事決められる前に捕まえときたい!」
「そうですか? じゃあラインしてみます」
「頼む! つか、そいつ野郎? できればカワイイ女の子がいいんだが……いや、贅沢は言わねぇ! たとえゴッツイ野郎でもウェルカムだ!」
「あははは、ゴツイ野郎じゃあないです。とてもカワイイ幽霊慣れした女の子で……って、わかりませんか? ユリちゃんですよ」
「マイガーッ!! そうか! ユリか! そういやアイツ、上京したての無職だったーっ! よし!すぐラインしていつから来れるか聞いてくれ! 弥生! 安心しろ! 事務員すぐに決まるからな!」
歓喜の社長の横で、弥生さんも両手を上げて喜んでいる。
「良かったー! アタシ細かい仕事、苦手なんだよね! ユリちゃんだっけ? もう明日から来てもらってよ! そしたらエイミーちゃんの分も一緒に歓迎会しよ! 飲むぞーっ!」
すごい盛り上がりだ。
だけど嬉しいのは僕も同じ。
お父さんにユリちゃんを守ってくれって言われてるし、同じ会社で働ければ安心だ。
僕はさっそくユリちゃんにメッセージを送る事にした。
良い返事がくるといいのだけど。
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