第九章 霊媒師 弥生ー1

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◆ 「どうぞ、」 人数分の熱いお茶を先代から順番に出していく。 大福には持参した紙皿(小)2枚に、それぞれ水と猫用高級カリカリを数粒。 大福はいつだって猫用ごはんの前でうにゃうにゃと咀嚼の素振りを見せる。 よくわからないけど喜んでるならそれでいい。 みんなのお茶が出揃ったところで、弥生さんの講義が始まった。 「エイミーちゃんがお茶淹れてる間に誠から聞いたんだけど、なによ、すでに幽霊の飲食はOJTで実際に見たって言うじゃない。じゃあ、もう、説明するまでもないか」 えぇ! 始まって早々、なんで撤収ムードなんですか! 「いや、待ってください! 確かに先週の現場で霊のみなさんとケーキとお茶を頂きましたが、復習の為にもう一度教えて頂けるとありがたいです! あの時はなにがなんだかわからなかったし、」 「そお? つったって、たいした話じゃないけどさ。まあ、せっかくココに霊体である先代もいる事だし、一応説明しとくか」 んじゃあ、と、オフィスチェアーをクルリと回転させて、隣に座る先代に身体を向けた。 一方先代はというと、キラッキラに目を輝かせ「はよ、はよ」と弥生さんを急かしてる。 どんな時でもニコニコと動じない先代にしては、そわそわと落ち着きがない、よほど芋饅頭が好物なのだろう。 「いい? 生者は生きる為、身体を動かす為にカロリーを消費するでしょ? そのカロリーは肉、魚、野菜、といった食べ物から摂取するの。だけど死者は?肉体のない死者がこの世に留まる為、その幽体を動かす為にカロリーのかわりに電気を使う、逆に言えば単純に動くだけなら食物は必要ない、ここまでは覚えてるかな?」 「はい。霊体はその電気信号を核にして、個々の抱える怨み辛み、心残りを燃料に動き回るんですよね?」 「そうよ。生者と死者、両者それぞれ必要とするモノは違う。でもね、死者だって元は生者。好物だったもの、思い出の詰まった味、生前最後に食べたもの、それぞれ思い入れはあるでしょう。肉体を失って実際に食べる事はできない、でも叶う事ならもう一度って願うのは自然な事だと思わない?」
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