第九章 霊媒師 弥生ー1

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弥生さんの講義を聞きながら、その横で「はよ、はよ」と身体を揺らす先代が気になって仕方がない。 どうやら先代だけで芋饅頭を食べるのはできないみたいだ。 さっきから弥生さんをせっついている事から、彼女がなにかしないと食べられないのだろう。 だけど弥生さんの講義はまだ続き、先代はおあずけを食らったままだった。 「エイミーちゃんは実家暮らし?」 「いえ、今はアパートで猫と暮らしです」 「そう、ご実家にお仏壇はある?」 「ありますね」 「お仏壇にお供え物するでしょう? 毎日のごはんとお水の他に、果物や仏様が好きだったお菓子とか」 「します、します」 「お供えしてお線香上げて手を合わせて、その時、なんとなくでも『生前これが好きだったよなぁ』とか『生きてたら喜んで食べただろうなぁ』とか思わない?」 「そういえばそうですねぇ。実家ではウチの母親がよく言ってました。『お婆ちゃんは柿が大好きだったから』とか。もちろん僕も思いましたけど」 「そう、それ! そこ! なんとなくでいいの。生者が死者を思い出し、目の前の食べ物と死者を思考の中で結びつけてあげる。そうすると仏様にも食べさせてあげたかったなぁという想いが生者の脳内で電気信号に変わるから、受け取り側の死者が持つ電気の力で一気に引っ張り引き寄せる。すると物理的に食べ物を食す事はできなくても、死者の中にある味の記憶が口の中で再現されるのよ」 なるほど……。 そういえば藤田家と一緒にケーキを食べた時、それぞれの前にケーキは出したけど、みんな口をモグモグさせながら、甘い!とかおいしい!とか言うだけで、実際に口の中に入れて食べるという行動はなかった。(ケーキはそのまま残り僕とユリちゃんで食べた) さらに言えば、生者であるユリちゃんは「ママ! ケーキだよ! これね爺ちゃんがママに買っていこうって言ったんだ、」と、確かに言っていた。 そうか、あの時あの一言があったから、お父さんもお母さんも田所さんもケーキを食べる事が……いや、正確に言えばユリちゃんの家族に食べさせてあげたいという気持ちが電気信号となり、その気持ちを受け取った家族みんなの口の中にケーキの味が再現されたんだ。
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