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あの日、僕は家族のみんなが楽しそうにケーキを味わっているのは視てたけど、その詳細までは知らなかった。
やっぱり聞いておいて良かった。
死者の中にある味の記憶の再現、か。
ん?だけど、藤田家のみなさんは、僕の愛してやまない”sweets&cafe☆bebe”を知らなかった。
という事はベベのケーキの味を知らないはずだ。
なのにおいしいと言っていたのはどういう事なんだろう?
「ああ、それはね。それぞれが持っている”イチゴのケーキ”という記憶で再現してたんだよ。だから、その現場で食べたケーキの味は、みんなそれぞれ違ったのかもしれないね。それでも、久しぶりに味わった食べ物の味、それと家族みんなで食べる事ができたって事で極上の味だったんじゃないかな?」
そうか、そういう事なんだ。
僕は弥生さんに5分もらって霊の飲食についてメモを取らせてもらう事にした。
「なぁ、オイ」
んもー、せっかくメモを取っているのに社長が話しかけてくる。
「なんですか? 今メモ取ってるんです。もうちょっと待ってください」
ちょっと冷たいかなとも思ったけど、社員が研修を頑張って怒る社長もいないだろうと突き放す、が、社長は引かない。
「いや、エイミーはメモとってていいわ。弥生、いい加減そろそろジジィに饅頭くれてやれ。好物おあずけ食らって悪霊化しそうだぞ? 俺、饅頭ごときでジジィ滅するのやだよ」
え!?
先代が悪霊化!?
僕はペンを握ったまま先代を見た。
いつもニコニコ優しくて頼りがいのある78才は、俯き加減でプルプルと肩を震わせていた。
耳を澄ませま「芋饅頭……はよ……はよ……」とエンドレスで繰り返しているではないか!
いけない! 途中からすっかり先代の事忘れてた!
「先代! ごめんなさい! ぼく、弥生さんの講義に夢中になってしまって、本当にごめ、」
ぎゃはははははは!
僕のごめんなさいを掻き消すような馬鹿笑い。
弥生さんは身体をくの字に曲げてヒィヒィと呼吸が苦しそうだ。
それでも頑張って息も絶え絶えに言葉を繋ぎ、
「ぎゃはははは! ごめ! ホン! ごめ! 説、明、終わったら、食べて、もうらおうと、ぎゃはははは! 思った、んだけど、ヒィィ! 話、長く、なっちゃった! てか! 先代! レア! レア! 先代! 顔だけ! 丸く! 出して! ヒィ! ヒヒヒ! あとは全身黒く、なっちゃって! 先代が、タイツッ! ぎゃはははは! タイツ野郎になっちゃった! 超!レア!!」
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