第九章 霊媒師 弥生ー1

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僕の目にはいつも通り、レトロな雰囲気のスーツ姿の先代が、弥生さんの目には顔だけ出した全身タイツ野郎に視えるらしい。 不謹慎だが、想像するとちょっとおかしい。 って! イカン! そんな事言ってる場合じゃない! 「弥生さん、いいから早く先代に『芋饅頭召し上がれ』って言ってください!」 「わか! わかってるって! 待って! ちょ! 待って!  今! 今言うから!」 どうもこの弥生さんという人は緊張度が上がる程、笑いが止まらなくなるタイプらしい。 それでもなんとか召し上がれの一言を発した弥生さん。 見る見るうちに笑顔を取り戻した先代は、さっそくもぐもぐ咀嚼しながら幸せそうだ。 「も~弥生ちゃんったら焦らしすぎ! 危うく悪霊化するトコだったじゃない。ま、そうなったら岡村君に『対・悪霊戦』ってOJTできるからいいんだけど、まだもう少しみんなと一緒にいたいからね。それにしても……! もちもちの皮の中、甘さ控えめの粒あんと甘さこれでもかのホクホクお芋が1対1の割合で詰め込まれた芋饅頭。この世とあの世合わせてもこれ以上の旨いものが他にあるだろうか! あぁん、弥生ちゃん、ありがとうねぇ」 「喜んでもらって良かった。それと先代も大袈裟! 先代が悪霊化するわけないじゃない! 今のは"饅頭おあずけ癇癪おこして不機嫌モード"程度の黒さでしょ! また買ってくるから機嫌なおして! そうだ先代、悪霊といえばなんだけど、今夜時間外で外回りしてきてもいい? 最近、S県の廃病院で幽霊が出るって噂があってね、そこに肝試しに行く若者が絶えないらしいの。まだケガ人は出てないけど、深夜にその廃病院行って軽くお祓いでもしてこようかなって。もちろんエイミーちゃんも連れてくけど、時間外手当出る?」
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