第九章 霊媒師 弥生ー2

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◆ 峠を抜けた僕達は、街道を走り住宅街へと入り込み、その住宅もまばらに消えた細い道をさらに突き進んでいく。 すると見る見るうちに街灯が減っていき、暗闇を車のヘッドライトが数メートル先を双眼に照らすのみとなった。 徐々に不気味さゲージが上がりつつある……が、今はまださほど恐ろしさを感じない。 なぜなら温度の下がらない社長の車トークが炸裂しっぱなしだからだ。 峠道ではちょっと鬱陶しかったけど(だって、ねぇ……)今はむしろありがたい。 「なっ! 車って男の最高のロマンだよな! 今の若いヤツらは車離れしてるなんて言われてるけど、エイミーは30過ぎた大人の男なんだからよ、なんかイカしたカッチョイイの買え! 俺が最高のカスタム教えてやるから!」 「はぁ、じゃあ、車買えるくらい給料上がったら考えます」 「おっ! 言うようになったな、エイミー! だけどな、そういうのが大事なんだ! 目標があれば仕事にもハリが出る! もらった給料みんな車に突っ込むくらいの気合を見せろ!  よし! じゃあ、給料上がるように、まずはこの現場からやっつけるか!」 嬉々とした社長の ”やっつけるか!” とほぼ同時に車が停止した。 エンジンはまだつけたまま、ヘッドライトをハイビームに切り替える。 僕は少しだけ息を呑んだ。 その煌々としたライトの先に浮かび上がるのは、ガラスは割れ、外壁は黒ずんだシミと稲妻のような亀裂が数多に走る、今にも倒壊しそうな廃病院。 「ここが……現場の……心霊病院……」 枯れた草木がざんばらに、崩れたコンクリートブロックが不規則な小山を作り、外周を囲っていたであろう古いロープが蛇の死骸のように地を這っている。 その傍には “立ち入り禁止” と、擦れた文字が残るパネルのような物があった。 泥にまみれ複数の足跡がこびり付いているのは、肝試しに訪れた若者達の痕跡だろうか。
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