第九章 霊媒師 弥生ー2

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◆ 看護師さんの幽霊と睨みあうこと数分。 唐突に社長が口を開いた。 「なぁ、アンタ、なんでこんな事してんの? 俺らはさ、T市役所に依頼されて来た霊媒師、祓い屋なんだわ。悪さばっかりしてるアンタを今すぐ滅したっていいんだけど、一応聞いとく。成仏する気はあるの?」 この質問……返答によっては、看護師さんは社長に薙ぎ払われてしまう。 血塗れでおどろおどろしさはあるけれど、そんなに悪い人には見えない……気がする。 お願い、ウソでもいいから、ここはひとつ成仏したいって言ってください。 それで僕に事情を聞かせてください。 『…………』 看護師さんの幽霊は、社長の質問には答えずに沈黙を守っている。 否定も肯定もない状態だ。 「っだよ、シカト?」 “シカト?” と、吐き出したと同時に頭をボリボリと掻く社長。(毛もないクセに) 「なぁ、答えろよ。成仏する気はあるかって聞いてんだけど。こんな所に執着して、生きてる人間怖がらせて、追いかけまわしてナニが楽しいの? あんまりこんなこと続けてると、成仏したくてもできなくなるよ?」 そう語気鋭く言い放った社長に対して、看護師さんの幽霊は血濡れた能面を崩すことなく、ただ、ただ、凝視する。 その目に感情は視えてこない。 「……あー! もう! イラッとすんなぁ! なんか言えよ!」 なにを言っても反応の無い幽霊に癇癪をおこした我社のトップは、 ガッゴン! バラバラバラ!! その怒りを壁を蹴って、八つ当たりすることで鎮静化をはかり(たいして鎮静してないけどね)、とばっちりを受けた古い壁は、ヒビを広げ乾いた音と共に破片を散らした。
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