第九章 霊媒師 弥生ー2

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もー、短気だなぁ。 パワー系なのは重々承知だけど、老朽激しい廃病院なんだから少しは控えてくださいよ。 崩れてきたらどうするんですか。 これはさすがに黙っていられない。 「社長、落ち着いてください。壁のヒビ広がっちゃったじゃないですか。ただでさえ、いつ崩れてもおかしくない廃墟っぷりなんですから、気を付けてくださいよ。でないと僕ら生身の人間はケガしちゃい__うわっ!! え? え? えーーっ!?」 それは本当に突然だった。 血をダクダク滴らせた能面で、動かざることマネキンのごとくだった看護師さんの幽霊が、瞬き2回の寸刻で僕の目の前まで迫ってきたのだ。 ____オマエどこ中だ? コラァッッッ!!! もちろんそんなことは言われてないけど、やんちゃなティーンエイジャーが上記のセリフと共にご挨拶を交わす時くらいの超至近距離で、僕に詰め寄る看護師さん。 てか、めっちゃ見上げてる、めっちゃ見てる! 怖っ!というかビックリした! 僕はドキドキする心臓を落ち着かせるため、深呼吸しながらジリジリと後ずさった。 看護師さんの幽霊はというと、相変わらずの能面で僕を凝視……しながら、おもむろに両手を上げて、手首をだらりと落とした。 え……? このポーズって……まさか……あの有名なポーズ? てことは、このあとに出てくるセリフは……もしかして……! 『うらめし……や』 うぉっ! やっぱり、このセリフかーーーー!! ベタだ!ベタすぎぃ!! 弥生さんではないが、深夜のテンションで笑いの沸点が下がっている今、あまりにベタな『うらめし……(数秒溜めてからの)や』に笑いが込み上げる。 少々丸っこい体型と、古典的なうらめしやポーズが変にファニーさを醸し出してるんだ。 が、ここで笑うのは大人としてどうだろう? 僕は必死に耐えた。
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