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瞬間、僕の全身に鳥肌が立った。
裂けた口から漏れる聞き取れない擦れた声、そしてなによりのその目だ。
これでもかと見開かれた目の中で、眼球がぐるんぐるんと不規則に回転している。
小さな黒目が物凄い速さで裏に回り表に戻る、生者では有り得ない不気味な動きに冷たい汗が流れ出た。
そんな中、追い打ちをかけるように社長の自慢のヘッドライトが激しく点滅しはじめた。
ついたり消えたりの明滅にさらされた廃墟の室内はコマ送りのように切れ切れになる。
「あぁ!? なんだよコレ! まだ電池はかえたばっかりだぜ? クソッ!」
どこをどういじっても回復しない、不自然な故障に社長は悪態をつきながらヘッドライトのスイッチを切った。
僕が借りていたペンライトも、数度の点滅のあと完全に消灯した。
人工的な明るさを失い、青みの強い月明かりが廃墟内を侵食し、霊の白衣に鮮やかだった赤い血は青い光と混ざり紫色に変化した。
気持ち悪い……紫色の血液も、有り得ない動きの眼球も、耳まで裂けた弓の口も、嫌悪感と拒否感に身体中ウゾウゾと舐め回され、より一層鳥肌が立つ。
だめだ、あの目を視るな。
心ではそう思っているのに目線が外せない。
あと数秒見続けたら情けない話、悲鳴を上げてしまいそうだ。
霊媒師がお祓いに来て、現場で悲鳴を上げる……それはなんとしても避けたい。
だけどこのままじゃマズイと焦り始めた、その時。
不意に社長に脇腹を突つかれ、結局僕はよりによって乙女のような悲鳴を上げてしまった。
が、結果として、霊から目線を外す事には成功した。
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