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◆
誰もいない廊下を挟み両側に並ぶ無数の横開きの扉。
ガラ、ガラ、ガラ、ガラガラガラガガガガガガガガガ___
それが手前から奥に向かって順にひとりでに開いていく。
開放された扉から青い光が輪郭も曖昧に流れ込み、暗がりの廊下が薄明かりに満ちた。
「へぇ。こりゃ、俺らへの気遣いか?」
機能しないヘッドライトをつけたままの社長がへへっと笑った。
「助かりますね。瓦礫やゴミでいっぱいですから、暗いままじゃ危なかった」
言いながら僕は割れたコンクリの小山を跨ぐ。
跨いだ先にもまた別の瓦礫やゴミがあって、気を付けなければ転んでしまう。
空き缶、ペットボトル、崩れた壁にガラス片、そして人の顔__ん?
「って、うわ!!」
僕は降ろしかけた足の先にある、床から生えたような生首に慌てて足を引っ込めた。
片足を上げたまま停止し固まる僕とガッツリ目が合う床の霊は、ニコッと笑いこう言った。
『うらめし……うらめし……くはないんですよねぇ』
まただ!この霊も “うらめしくない” の?
年の頃は40代くらいか、先程の目玉グルングルンの看護師さんよりは若く見える。
とりあえず僕はしゃがみこみ、首のまわりに散乱するゴミと瓦礫を片づけた。
「あの、大丈夫ですか? 身体は外に出せますか?」
すると40代女性の霊は、それには答えず床からズズズと片手を出して指をさし、
『1mくらい先、進行方向左側。床が少し割れてるから気を付けて、』
それだけ言って消えてしまった。
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