第九章 霊媒師 弥生ー2

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それにしても、院長はもう僕達の事を知っていた。 看護師長から報告を受けた__と、言ってたけど、看護師長ってもしかして、目玉ぐるんぐるんの看護師さんのことかな? 僕らが霊媒師であることは、あの人にしか話していない。 『お茶のひとつでも出せればいいんだけどねぇ。なんせここは廃病院だから』 なんて、すまなそうに笑う目は小さくてつぶらでかわいらしい。 男の憧れ___年老いてもフッサフサな毛髪は真っ白で、天然パーマなのかくりんくりんと綿あめのようなシルエットがフワフワマルチーズ感をさらにUPさせている。 本当にこの(ひと)が、生者のアキレス腱を切って、命乞いする者を嘲笑い、腹を引き裂き臓器を引きずり出す、凶悪名高い悪霊なのか? 僕は失礼を承知でまじまじと院長を視た。 いやぁ……とてもじゃないが、そんな風には視えない。 だけど、このマルチーズ感たっぷりのプリティな外見で、噂通りの悪行をするとなれば、むしろそのギャップで恐ろしさは倍増する。 「なぁ、院長。なんであんた生者を襲うんだ? なのに、なんで俺らは襲わないんだ?」 や、ちょっと、社長、忘れちゃったんですか? 一応僕ら、最初の1人目の看護師さんの幽霊には襲われたましたよ? 社長は鈍感だから、そうは思わなかったみたいだけど。 看護師さん、僕らを怖がらせようと頑張ってたじゃないですか。 『ははは、襲ってはいません。まぁ、我々全員、全力で脅かしはしましたけどねぇ』 院長はにこにこしながら首を振り、続いて縦に振った。 ____襲ってないけど脅かしてる? 似たようなモンじゃねぇか! いつもの社長なら、声を荒げこう詰め寄ってもおかしくない。 だけど社長はそうはしなかった。 かわりに何か考え込んでいる。
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