第九章 霊媒師 弥生ー2

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ここまで話し、またもしばしの沈黙。 その隙間に滑り込むように社長が言った。 「てかさ、デカイ病院が建ったせいで、自分の病院が潰れちまったのは悔しかっただろうけど、聞く限り良い人生だったじゃん。死ぬ間際、家族だけじゃなく、昔の仲間みんな駆けつけてくれたんだろ?辞めた職場の上司の為にそこまでしてくれんのは、あんた相当慕われてたんだろうよ」 いつもの早口、巻き舌の社長らしくない神妙な話し方。 もしかして社長は、先代が亡くなった時の事を思い出してるのだろうか? 社長がまだ社長でなく、一霊媒師だった頃に先代は亡くなっている。 普段憎まれ口は叩いても、社長は先代が大好きだ。 そんな先代の最後の日と、院長の話を重ねているのかもしれない(ま、先代の場合、亡くなってからも一緒にいれるんだけど)。 『ふふふ、ありがとう。清水さんのおっしゃる通り、本当に良い人生でした。私は幼い頃から医者になりたかった。誰かの役に立ちたかった。だから努力して努力して、夢を掴んだ時は飛び上がるほど嬉しかった。この病院の院長になってからは特に、1人でも多くの命を救おうと日々頑張ってきました。それが私の生きがいでした。途中、大きな病院ができて患者さんはみんなそちらに転院してしまったけれど、患者さんのことを思えば、最新の設備で最新の医療を受ける方がいいのだと最後は納得できました。そりゃちょっとは悔しかったけれど、私の心残りはそこではありません』 「なら、なにが心残りなんだよ?」
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