第四章  霊媒師研修-2

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僕は言ってしまってから後悔した。 カフェに誘われて喜んでいる先代に“幽霊だから食べられない”は、ひどい。 軽い気持ちで言ってしまったが、今のはあまりに無神経だ。 先代だって、そんな事は百も承知だろう。 食べられないけど気分だけでも味わいたい、きっとそう言う事なんだ。 なのにあんな言い方をした自分が恥ずかしい……先代に謝りたい。 ああ、でもここで謝ったらかえって“先代は幽霊だから”と強調していると思われないだろうか?  嫌な気持ちにさせてしまうのではないだろうか? ああ、なんでこう考えが浅いのだろう……? どうしたらいいんだろう……? ぐずぐずと悩む僕の思考を遮断したのは社長の声だった。 「なに言ってんの、エイミー。確かに先代は死んじゃってるから食べられないけど、メシの味はわかるし腹いっぱいにもなるよ? あー! もしかしてそんな事も知らないのかよっ! ははっ! エイミーばっかだなぁ!」 右手で僕を指差して、左手を自身の腹にあてながら、ゲラゲラと僕をバカにする社長に、先代の雷が落ちた。 「ばかもん! なぁにが“そんな事も知らないの”なの! それを教えるのが清水君の役目でしょうがぁ! まったく34歳にもなって中身は4歳児だよ! ごめんね岡村君!、“幽霊と食事”については改めて研修してあげるからね。習ってなければ知らなくて当たり前なんだから気にしなくていいよ。ほら、清水君はちゃんと岡村君にあやまりなさい!」 顔を真っ赤にさせて社長を叱り飛ばす先代。 怒られて逃げ回っている社長。 僕はほんの少し呆気にとられ、そして笑ってしまった。 「岡村君なに笑ってるの! 相手が社長だからって嫌な事言われたら我慢しないで怒っていいんだよ! パワハラで訴えてやんなさい!」 「なに言ってんだジジィ! エイミーはちゃんとギャグだってわかってるっつーの!」 「このッ! またジジィって言ったな! 新人さんが来たらちゃんと“先代”って呼ぶようにあれ程言ったのに!」 「うるせー! ジジィに“先代”なんてキモチワルイんだよ! あーもーやめやめ! ジジィはジジィだ!」 ちょ、社長……先代の事ジジィなんて呼んでたんですか? 失礼極まりないな、オイ。 だけど僕は“失礼で行動に難あり”なこの人のおかげで僕の緊張が溶けた。 今なら、うまく言えるかもしれない。
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