第九章 霊媒師 弥生ー2

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『ですからね、負傷者なんて出しませんて。確かにここはオンボロです。瓦礫にガラスにゴミに吸い殻。荒れに荒れた廃病院です。けどね、清水さん。我々を舐めてもらっちゃあ困ります、』 舐めてもらっちゃあ……このセリフと共に老マルチーズの眼光が鋭く光った。 そして、 『ふふふ……あなた方はまだ若い。だから違いがわかっていないようです。いいですか?これから襲うと脅すの違いをご説明いたしましょう。まず襲うというのは……ちょっと失礼、』 言いながら眼付きの変わった小柄な院長は、身長190cm越えの社長の前に立つと拳法のような構えで両手を大きく振りかざした。 で、 『たぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』 ポカポカポカポカポカポカ!! ちょ……え? 手練れの老格闘家のような眼光をキープしたまま、院長の細腕がフルに回転しはじめた! 圧倒的な身長差で院長のグルグルパンチが社長の分厚い胸筋にヒットする! 否、幽霊である院長の細腕は、社長の身体をすり抜けているから実際のダメージは完全にゼロだ。 いや……てか……たとえば僕。 僕は幽霊を物体として捉える事ができる。 だから、社長のかわりに僕が院長のパンチを受けたとしても、やっぱりダメージはゼロなんだと思う。 だってへなちょこなんだもの。 マルチーズなんだもの。 二本の前脚で一生懸命繰り出すわんちゃんパンチなんだもの。 んーかわいくてキュンってしちゃう。
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