第九章 霊媒師 弥生ー2

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あまりにもベタすぎる幽霊の効果音。 それだけでも腹筋崩壊の危険性があるというのに、このヒュゥドロ音、明らかに人の口で言っている。 それに気付いてしまった僕らは唇をワナつかせながら笑いに耐えた。 クソッ! これ、昼間聞いたらそれほどでもないんだろうけど、なにせ夜中のテンションは笑いの沸点がダダ下がりなのだ。 ヤバいぞ! んぷぷ……! と、そこへ追い打ちをかけるような、ベタなセリフが降ってきた。 『うらめし……や(仮)』 出た! まただよ!なんでここの霊達(ひとたち)”うらめし……や”って溜めるんだよ! しかも “カッコ仮”ってなんだよ! “うらめしくない”って散々言ってたからって、自分の意見を覆すような “うらめしや“ のセリフにわざわざ(仮)を入れなくていいから! そんなトコ律儀にしないでいいから! 心の中で盛大に突っ込みつつ、声のした方を視ると、割れたガラスの窓枠に細い指が外側から掛けられている。 通常ならちょっとビビるシチュエーションだと思うけど、人の口で言っちゃってるヒュゥドロ音と溜めの入った“うらめし……や” で、もはや恐怖は感じない。 とりあえず数秒、窓枠を眺めていると、縁に掛けられた手はそのままに、スゥっと音も無く顔が上がり、首だけがそこにあるような……そう、まるで生首のように……って、ん?生首? あぁっ! よく見たらさっき廊下で会った(ひと)だー! 床から生首が生えたように登場して、廊下の床に割れているトコがあるから、歩く時気を付けてって教えてくれた40代くらいの女性だよ!
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