第九章 霊媒師 弥生ー2

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「へぇ~、それであんたら揃いもそろって『うらめしや』だったんだ。まぁ、俺らみてぇな霊媒師でもないかぎり、幽霊が目の前に現れたらそれだけでビビるだろうからな、でもよ……」 感心したような社長だったが、なにかが引っ掛かるのか言葉を止める。 そしてポール(点滴スタンドだけど)にもたれリラックス中のタカシさんをチラリと見てこう言った。 「いや、そこんとこは良くわかったよ。訳を聞けば納得するしスゲェことだって感心する。いやな、俺が疑問に思うのは……タカシだ。ま、俺的には最高のヤツだと思ってる。けどよ、タカシは俺らに『うらめしや』すら言ってねぇ。はじめっから踊ってた、いや踊り狂ってた。いくらこの中が暗くてもよ、これじゃあさすがに脅しにもならねぇだろ。むしろ怖さ吹っ飛ばして笑っちまうんじゃねぇか?」 確かに。 タカシさんの波打つお腹、ひとっ風呂浴びたような滝汗、官能的な熱視線、唸るダンスに透ける白衣、これらは廃病院の不気味さをも砕く破壊力。 ポッカーンと釘付け後に笑うか引くか、もしくは両方か。 どっちにしてもうまく怖がらせて安全な方に誘導することは難しいのではないだろうか?  『そうですねぇ、タカシくんの踊りで怖がる若者はいませんねぇ。みんな最初は戸惑って固まります。その後の反応は人それぞれですが大抵、「オマエなんなんだ」「放っておいてくれ」「人の気も知らないで」「ふざけるな」「消えろ」「水に濡れたブタ野郎」とか言われます』 うわぁ、戸惑う気持ちはわかるけどヒドイ言われようだ。 『本当に言いたい放題ですよ。でもね、それでいいんです。だってタカシくんの担当は脅し班じゃあない、交渉班なんですから』 コウショウ班? コウショウって……ネゴシエートの交渉だよね? 幽霊が若者達となにを交渉するんだ?
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