第九章 霊媒師 弥生ー2

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特殊メイク班。 生前は看護師業務をこなしながら、亡くなった患者さんに死化粧を施していたそうだ。 にしてもメイクの腕ハンパないっす。 あんなにかわいかったマルチーズ顔のお爺ちゃん院長が、闘犬見まごう鋭い顔のドーベルマンに変身したのだ。 小さくつぶらなかわいらしい目は切れ長に、小ぶりな鼻はすっきり高くなってるし、輪郭にいたっては丸ぽちゃから、がっしりとした顎が若々しさと屈強さを感じさせる。 そして一番謎なのが身長だ、目線が僕と変わらない。 メイクで身長ってのばせるの?(ただし天然パーマは変更なし) ザザッ! 僕らの動揺をよそにドーベルマンが廃墟の床を蹴った。 青い月明かりを斜めに受けて顔半分が影になる。 その影ごと呑み込むようにバサッと白衣をひるがえし、切れ長な目で冷たく僕らを凝視する、尋常じゃない威圧感。 そして懐から手術用メスを取り出し大きく振り上ると、地鳴りとも思える呻き声を発した。 『オマエの……臓器ヲ……寄越せ……!オまえノ……ゾウキヲ……ゾウキヲ……寄越せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』 きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 『ハラを裂いてオマエノ膵臓腎臓肝臓をむさぼり喰うのだ心臓は最後だ簡単に殺しはしない生かし苦痛を与え最後の最後に心臓を喰らうのだ逃げられると思うなよアキレス腱も切ってやる動けないようにしてやる自分で死を選んだのだその命私が好きにしても文句はないだろう!!』 きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! ごべんだざいぃぃぃぃ!!!! おだがざがだいでぇぇぇぇ!!! 『と、まぁ、こんなふうにですね、私なんかじゃ大して怖くないかもしれませんが、死ぬ気が失せるように全力で脅かして……え、あ、あの、エイミーさん?大丈夫ですか?』 うあぁ!? ドーベルマン顔だけど口調は戻ったぁ!! 今のウソ……? あ、な、なんかすみません、すごい演技力なんだもの、ついつい取り乱しました、 だけど納得した。 廃病院のボスキャラ、臓器を狙う悪院長というのは、このドーベルマンバージョンのことだったんだ。 この完成度……こりゃネットで話題にもなるわ。
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