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「オィオィオィ、院長、あんたやるなぁ。俺でさえ今のは少し怖かったぜ。エイミーなんか見てみろ、泣いてるからな」
泣いてません!
ちょっと涙ぐんだだけです!
『いやぁ、こんなに怖がってもらえると甲斐があるといいますか、幽霊冥利につきますなぁ。人というものは不思議なもので、死を決意しても他者から苦痛を与えられるのは恐怖であり嫌なのです。だから私が脅かした若者は自殺を諦め逃げていきました。でもねぇ、これじゃあダメだったんです』
「なんでだ?強引な方法と言えなくもないが、自殺しなかったんならそれでいいだろうよ」
『確かに、彼は自殺を諦めた。だけど諦めたのは自殺でしょうか? もしかしたら“今日ここで自殺するのを諦めた”かもしれないでしょう?』
「ああ、なるほど……」
『脅かしてその場しのぎじゃだめなんです。自殺志願者がひとたび廃病院を出てしまえば、その後ずっと彼らに憑りついて見張る訳にもいきません。廃病院に来てくれたその時が最初で最後のチャンスなんです。私達はそのチャンスをどう生かしたらいいのか、どうしたら救えるのか、何度も何度も話し合いました』
「で、その話し合いの結果が、」
『タカシくんを中心とした交渉班の結成です。自殺志願者を死ぬ気が失せる程怖がらせるんじゃなく、死ぬ気が失せるほど笑わせることにしたのです』
院長の説明の後ろでは、話の邪魔にならない程度の音量で『ポゥ! ポゥ! ワァオ!』とポールで回転するタカシさん。
相変わらず汗がスゴイ。
『自殺を決意するほど悩んで廃病院にやってきたというのに、陽気な幽霊の踊り子さんが、場違いに現れたら拍子抜けすると思うんですよね』
まぁ、そうでしょうとも。
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