第九章 霊媒師 弥生ー2

44/72
前へ
/2550ページ
次へ
『最初はね、皆さん呆気にとられ、そして拒絶します。それでもタカシくんは引きません。罵られても馬鹿にされても踊り続けます。そのうち大抵、邪魔するな! 死なせろ! 空気読め! と怒り出しますが、そうなったらこっちのものです。死ぬ事で一杯だった頭の中にタカシくんへの怒りの感情が生まれれば時間稼ぎができるからです。タカシくんはたとえゴミを投げられても背を向けられても負けません、更に激しく踊ります。そこからは長期戦になりますが、最終的には彼らの態度は渋々ですが軟化します』 なんとなくわかる気が…… あのファニーな見た目とキレのあるダンスを延々と見せられて、片言の誘い文句(カマッ!とかね)を投げかけられたら、ネガティブ方向でのやる気は削がれるかもしれない。 『軟化すれば多少はこちらの話を聞いてくれるようになります。そうなったらあと一息、交渉班のメンバーが寄ってたかって悩みを聞き出します。死にたい気持ちがなくなるまで決して逃がしません。とことん話を聞いて気持ちが沈んだらタカシくんの踊りを鑑賞。泣いて笑って泣いて泣いて……そのうちそれが笑って笑って笑ってに変わるまで軟禁します。容赦無しです、おうちには帰しません』 軟禁って物騒な。 でもそっか、そうやって霊達(みんな)で必死に助けようとしていたんだ。 『私達はね、タカシくんの踊りを“救いのダンス”と呼んでいるのです。追い詰められた若者の前でだけ踊る特別なダンスで、自殺志願者を説得するとっかかりになる大事な仕事です。でもね、顔にはださないけどプレッシャーはあったはずです。それでも彼はいつだって笑ってた。だけど今夜のタカシくんの笑顔は格別でした。あんなに楽しそうに踊るのを初めて見ました。清水さんと踊りの試合をしたのが、よほど嬉しかったのでしょう』
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加