第九章 霊媒師 弥生ー2

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◆ 漆黒の夜空がうっすら藍色へと変化しはじめた頃、僕ら生者も院長ら幽霊軍団も笑い疲れて、宴会も終盤へとさしかかっていた。 そこにパンパンと手を鳴らした院長が立ち上がり、 『皆さん、今宵宴もたけなわとなってまいりました。大澤病院職員一同、全員が揃って廃病院(ここ)に集まるのは久しぶりじゃないでしょうか? 死して尚、長い間シフトに入ってもらい私の元で働いてくれた皆さんには感謝の言葉もございません。本当に、本当にありがとうございました。それから清水さん、エイミーさん、お二人にも感謝します。とても楽しい宴会でした。清水さんとタカシくんの踊りの試合は決して忘れません』 心地良い疲労感で寝転がったりしていた幽霊軍団の皆さんも、院長の挨拶を背筋をのばして聞き入っている。 しんと静まる院長室。 最初に沈黙を破ったのは、目玉グルングルンの看護師長さんだった。 『院長も長い間、本当におつかれさまでした』 フルラウンド戦ったボクサーのような血糊は消え、目尻にシワと涙を溜めた上品な老女性に姿を戻した看護師長は涙声だった。 それを皮切りに、本来の姿に戻った優しそうな幽霊軍団が次々に院長に声を掛け取り囲んでいく。 『おつかれさまでした』 『あっという間でした』 『毎日が楽しかった』 最初はすすり泣きのような鼻声が飛び交っていたのだけど、 『今夜で最後かと思うと寂しくてたまりません』 誰かが言ったこの一言で、幽霊軍団は火がついたように泣き出してしまったのだ。
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