第九章 霊媒師 弥生ー2

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◆ 「あんたら知ってたんだな」 埃だらけの泥だらけ、ついでに言うなら擦り傷だらけの社長が静かに言った。 『はい、知っていました。だけども……ふふふ、それが今夜だとは思いませんでしたがねぇ』 「そうか、」 社長は聞いていたそうだ。 T市役所の職員さんからお祓い依頼のメールを受けた後、手続きの為に直接担当者と打ち合わせをした時に、長年放置されてきたこの廃病院の取り壊しがようやく決定したということを。 なんで僕や弥生さんや先代に話さなかったか? なにか特別深い意味があるのかと訳を聞いてみたら、道中話そうと思ったのだが、車談義に花が咲き(社長が一方的に咲かせてたのだけど)うっかり忘れていたそうだ。 社長……そういうの忘れちゃダメです、報・連・相! 昼間のうちに廃病院内の危険な場所を点検する現調班の皆さんは、定期的にT市役所にも出向き、廃病院の取り壊しの話が出ていないかチェックしていたそうだ。 毎回、その話がでないまま長い年月がたっていたのだが、数か月前にようやく取り壊しが決定したと情報を入手していたらしい。 そして、表向きは“悪霊達に憑りつかれた恐ろしい心霊病院”とされている廃病院取り壊しにあたり、祟りが起こらないようお祓いの依頼がされた事も、今日の昼の段階で全員に周知済。 その為、普段はシフト勤務で休みの(ひと)もいたのだが、霊媒師が来るのにそなえ休日返上フル出勤に急遽変更をかけたというのだ。 ただ、霊媒師が依頼を受けた今日の今夜でやってくるとは思っていなかった、御社はフットワークがいいですねぇなんて感心されてしまった。
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