第九章 霊媒師 弥生ー2

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「えぇ!? ちょっと! エイミーちゃん! 気功法って! 違うわよ! ほら喧嘩系の漫画でよくあるでしょ? 自分より体のデカいヤツ相手でも、力じゃなくて技術で勝ってのし上がる的な」 「え!? あ、その……すみません、なんですかそれ」 「アレよ! アレ! 少年漫画とかでよくあるじゃない! ひ弱な主人公が誰かに傷付けられて、それをきっかけの身体を鍛える感じでさ、実はスゴイ力を秘めてた感じでさ、読んでると感動して泣いちゃう系のさ! 知らないのかぁ……そうかぁ……マジかぁ……いいやぁ……今度、そういう漫画貸すから読んでよ」 がっくりと肩を落としうなだれる弥生さんは、トボトボと僕から距離をとった。 えぇ!? まさかこんなことで溝が生まれるとは……! 今度そういう系の漫画、是非お借りして溝を埋めなければ! てか社長は読んだことあったんだな。 「この中に……ッ!」 部屋の真ん中まで移動した弥生さんが張った声を上げた。 両手を上げて360度見渡すように、大袈裟な手振り身振りでこう続けた。 「この中に! 根性で拳に力をつけていく的な漫画が好きな方はいらっしゃいませんか!」 ____この中にお医者様はいらっしゃいませんか! 飛んでる最中の飛行機の中、キャビンアテンダンドさんが緊急時に乗客に問いかけるような緊迫感に似ている。 なにをいきなり……みなさん漫画なんて読まないんじゃ……と思っていると、なんと数名の看護師さんが小さく手を挙げてるじゃないですか! 「わお! イチ、ニィ、サン、シィ……4人も! 趣味が合うわね」 途中で言葉を止めた弥生さんは、手を挙げた4人の顔を順に視る。 すると、そのうち1人が……って、あーっ!あれは生首ネタの40代看護師さんだ! 『あの……私、昔から少女漫画より少年漫画が好きなんです。カッコイイですよね、最初は弱い主人公がどんどんレベルをあげていく……!』 手を挙げた残りの3人も遠慮がちだが、顔を見合わせ頷き合い、残る院長含めた11人は『そうなんだぁ』とか『今度読んでみたいわ』とか感心している。
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