第九章 霊媒師 弥生ー2

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「なんど追い払っても人を変えてやってくる。愚かな若者達を見捨てず導き、自暴自棄になった自殺志願者の命も繋ぐ。あなた方以上の人格者はほかにはいない。もしかしたらアタシの、いや、アタシ達の身内の者が知らない間に助けられていた可能性もある。本当に感謝の言葉も見つからないよ……特に院長さん、」 突然の名指しに院長は、驚いたように弥生さんを見る。 まわりの幽霊軍団は院長の肩に手を置き、そっと半歩前に押し出した。 「院長さんが一番最初に亡くなったんだよね?」 『……そうです。なんせ、ほら、一番の年寄りでしたから』 「院長さん、最初はたった1人でここで頑張ってたのよね?」 『はい、』 「1人で活きのいい若者達の相手は大変だったでしょう?」 『あははは、大変でしたねぇ。だって彼ら全然怖がってくれないんだもの。生前見た心霊特集のテレビを一生懸命思い出して、記憶の中の悪霊を真似してねぇ。こんな事なら仕事ばっかりしてないでもっとテレビを見ておけば良かったって思いましたよ』 「そうよねぇ。ずっとお医者さんやってたのに、いきなり悪霊にジョブチェンジってキッツイよねぇ」 『ホント、キツかったですよ……でもねぇ、やるしかなかったですからねぇ。私はこの病院の院長だ! って慣れない悪霊業務に日々勉強でした。ああ、そうだったなぁ……あの頃、まるで医者になりたての時みたいにがむしゃらに頑張ったんだ……』 「うんうん……それからしばらくして、」 『そう! ありがたいことに……って、言ってもいいのかな? 看護師長が亡くなってね。彼女が心配してここに来てくれたんだ。生前は真面目で優しくて、みんなのお母さん的存在だった看護師長だったんだが、意外な事に実はホラー映画ファンでね。師長が来てから、悪霊とはなんたるか! って猛特訓してくれたんだよ』 「さすがは大澤病院イチのイイ女! やるじゃんか!」 『本当に助けられました。それからしばらく2人で頑張ってきましたが、年月が経つにつれ亡くなった元スタッフ達がどんどん集まってきてくれて……今じゃ大所帯、総勢15名だもの! 私は……本当に幸せ者です。生きていた頃も死んだあとも、ずっとみんなに支えてもらいました。私1人じゃあ、こんなに長い間頑張る事はきっとできなかったと思います。私はね……実を言うと今ではみんなのこと“大澤病院の元スタッフ”とは思っていないんだよ』
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