第九章 霊媒師 弥生ー2

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『それではみなさん、私達は逝きますね』 綿帽子のようにふわぁっと宙を舞い、金色の三車線に移った院長が僕達に手を振った。 大澤家15人、誰一人残すことなく光る道に乗った事を確認した弥生さんが言った。 「みんな、ただひたすら真っ直ぐ逝くのよ? 間違ってもちょっと寄り道……なんてしないように! どっかに寄って、そこでまた若者達がバカやってんの見て、もう一仕事しようなんてことになったらウチらが大変だから!……ん? ん? いや待てよ?いっそのこといろんな廃墟で暴れてもらって、そのたびウチにお祓い依頼が来たらスッゲェ儲かるんじゃないの?」 「自作自演で楽して金儲け!」なんて下衆なニヤケ顔をする弥生さんを注意するどころか、「それいいな!」と賛同する社長に僕は事務的なツッコミを入れる。 その時、「新人のクセに生意気だゾ!」なんて反撃する社長の声を掻き消すような突風が吹いた。 その風に煽られて金色の三車線が院長室の窓から切り離され、グンッと高度を上げていく。 あ、と思う間もなく大澤家の姿が視界から消え、かわりに空からはたくさんの声が降ってきた。 『シャッチョさん! いつか死んだらまたダンスバトルしましょうね! ポォウ!!』 『弥生ちゃん! お姉さんって言ってくれてサンキュー!』 『弥生さーん! 僕、本当はグレネードランチャーじゃなくて……水鉄砲なんです! ウソついてゴメンナサイ!』 『弥生さん!私達が教えたメイクテクを忘れないでくださいよ!』 『向こうに逝ったら没ホラー俳優に会いに行くわぁ!』 『弥生さん! 清水さん! エイミーさん! ありがとう! 最後に早寝、早起き、腹八分目! 働いていると難しいかもしれないけど、健康に気を付けて元気で長生きしてくださいねぇ! 大澤家一同、あなた方のことは決して忘れません!……また……いつ……か……会いま……しょう……』 院長の最後の言葉が擦れ遠くに消えていく。 それと同時に金色の三車線も、光の雪を降らせながら天高くへと昇っていった。
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