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◆
「無事、逝ってくれたみたいね」
空を見上げる弥生さんが静かに呟いた。
「そうだな。弥生、エイミー、おつかれさん」
すっかり明るくなって必要のなくなったLEDライトを頭から外しながら社長が言った。
「おつかれさまでした。僕、なにもできなかったけど……すごく勉強になりました」
弥生さんの仕事ぶりに圧倒され、社長が元ストリートダンサーだってことに噴き出して、そしてこの廃病院の真相に驚いた、本当に濃い一日だった。
「それにしても驚きましたね。噂と違って悪霊なんて1人もいなかったんだもの。それどころか若者達を守ってくれてたなんて思いもしませんでした」
院長室から出て、先代と大福の元に戻るべく長い廊下を歩きながら、僕が2人にこう言うと、
「だな、驚いたぜ。まぁ、最初に会った看護師長のぬるい脅しに、アレ? とは思ったけどよ」
そう言って笑う社長に弥生さんが呆れた声でこう言った。
「ちょっと誠! わかってなかったの? まったく、アンタもまだまだねぇ。アタシはすぐにわかったわよ」
「えっ! 弥生さんはわかってたんですか? いつ? いつ気が付いたんですか?」
呆れたように笑いながら“わかってた”と言う、その言葉に驚いた僕は思わず話に割り込んでしまった。
「そりゃわかるよ。気付いたのはあの時よ。ほら、若僧3人の悲鳴が聞こえてきて、みんなで2階の病室に入ってさ」
「ああ、弥生さんが腰抜かしてた3人のお尻蹴った時ですよね」
「そうそう」
「だけど……あの時の師長さんは、顔から血流してるわ血塗れ白衣姿だわで、さすがにあんなハードな姿じゃヤバイ霊にしか視えないと思うんですが……」
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