2366人が本棚に入れています
本棚に追加
手振り身振りで大袈裟に、それでいて目は本気で話す弥生さんに、若者達の表情が変わった。
「いや……なんか、すみませんでした。俺ら……なんていうか、廃病院がネットで騒がれてたしで、ノリで来ちゃったんですけど……まさか、本当に幽霊見ちゃうとは思わなかったし正直怖かったです。だからこういうのはもういいやって。もう興味本位でこういう場所には行きません」
3人の真面目な態度に、弥生さん息を吐くように微笑んだ。
そして、
「そう、ならいいわ。それと、アンタらの友達にも広めときな、なるべく大勢にね。友達を危険に晒したくないでしょう? さぁ、わかったらもう行きな。帰り道は安全運転でね」
最後は優しく諭すように若者達を車に乗せて帰るのを見送った。
彼らが行った後、瀕死の演技から解放された僕は弥生さんに尋ねた。
「弥生さん、なんで廃病院のみんなが本当は良い霊達だって言わなかったんですか?あんなに頑張った大澤家のみんなが誤解されたままっていうのはちょっと悔しいというか……もう廃病院は取り壊しで無くなるわけだから本当のこと言っても良かったんじゃないですかね?」
「いいんだよ、あれで。大澤家は悪霊の汚名返上より、1人でも危険な目に遭う若者が減ることの方が本意だと思うんだ。この廃病院が無くなっても、他にたくさんの心霊スポットがあるんだもの。あの3人が帰ってから、まわりの人間に、心霊スポットに行ったら怖い目に遭った、興味本位で行くもんじゃないって広めてくれたら少しは効き目があるかもしれないでしょう?」
僕の抗議に、眉をハの字にして笑う弥生さんの後を社長が引き継いだ。
「それによ、若ぇヤツらは、俺らオッサンオバサンの言うことなんか素直に聞きゃしねぇよ。ま、あいつらは弥生にケツ蹴られて骨抜きにされてるから別としてもよ。若ぇヤツらは、同じ若ぇヤツらからの言葉が一番響くんだ。だからあえて大澤家には悪霊のままいてもらって抑止に一役買ってもらった方が、むしろ喜ぶんじゃないか?」
最初のコメントを投稿しよう!