第十章 霊媒師事務所の新入社員

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「や!大福ちゃん!すっごいカワイイ!」 ユリちゃんの“カワイイ”コールを受けて、朝の光に針のようだった大福の瞳が真ん丸に変化した。 通常猫の目は、明るいうちは縦に細長く、暗くなれば少ない光をより多く集めようと瞳孔が開き大きな丸い黒目になる。 それが朝の充分な明るさの中、さほど光を集めなくてもいい状況にも関わらず、瞳孔が開くのには特別な理由(わけ)がある。 猫自身がなにかを見つけ、その対象をよりよく見ようと意識した時、明るくても真ん丸黒目というイレギュラーが発生するのだ。 例えば獲物を狙う時、または目の前の対象に強い興味を持った時、などなど。 おそらく大福はユリちゃんに興味を抱いたのだろう(しょっぱなから褒めてもらえたし)。 大福は瞳孔全開、磨き上げたオニキスのような爛々(らんらん)とした()でユリちゃんに照準を合わせ、そして舌なめずりをしている。 ん?舌なめずり? まさか大福、ユリちゃんのこと自分のゴハンだなんて思ってないよね……? ユリちゃんは痩せ型で、ゴハンとしての魅力には乏しいと思うよ? 「いいなぁ、岡村さんって幽霊にさわれるんですよね?」 大福の特盛りボディを触ろうと幾度も挑み、そのたびスカスカとすり抜けてしまう自分の手を恨めしそうに眺めながらユリちゃんが言った。 「そうだねぇ。僕の霊力(ちから)は接触に対応してるからねぇ」 「大福ちゃんってさわるとどんな感じですか?」 「さわった感触?聞きたい?そうだねぇ、毛並みはフワフワでそれでいて撫でると滑らか。鼻の頭は普段はしっとり湿ってるんだけど睡眠時はカラカラに乾くの、カワイイよねぇ!それから、こう見えてこの仔は普通の猫じゃない、猫又なんだ。ホラ、よく視ると尻尾の先が二股に割れてるのわかる?スゴイでしょ!スゴイよねぇ!あ、だけど僕、言っておくけど大福が猫又だから好きになったんじゃないよ?好きになった猫が、た ま た ま 選 ば れ し 猫 又 、だったってだけ。たとえこの仔が平凡な幽霊猫だったとしても、愛の深さは変わらない、当然だよね。そうそう猫又ってね、この先、霊力(ちから)がレベルアップしていくと、尻尾の先がどんどん裂けて完全な二尾になるんだって。さらにレベルがあがると、二尾がそれぞれ割れて裂けて尻尾が増えていくんだ。ただでさえキュートな尻尾が増えるってスゴイお得だと思わない?最高っ!最終形態は九尾までいくらしいんだけど、そしたら僕、9本の尻尾の束に顔うめて、ビタンビタン叩いてもらうんだ!それから、、、ハッ!」
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